駅ナカきつね
「へいいらっしゃい。食券をお願いします」
「いい匂いね」
「食券をどうぞ!」
たぬきかなきつねかな。今日の気分はどっちかな。
「へいいらっしゃい!」
やっぱりたぬきかな。ここの席にするわ。
何だかよさげな店ね。きっと場所がいいのね。放っておいても人が来るような場所。味の方はどうかしら。期待を抱かせる出汁のよい匂いがするようね。きっとここはたぬきだわ。
「はい。お客さん先に食券をどうぞ」
でもきつねも捨て難いものね。いつだって捨てた方は可哀想なものよ。
「へいいらっしゃいませ」
とても威勢のいい店ね。呼び込まれるように人が入ってくるわ。
「いっらっしゃい。どうぞ」
きつねが私を呼んでる気がする。熱いのがいいわ。一番熱いのをもらうとするわ。もしも熱くなければもう二度とこない。それだけのことよ。
「きつねをちょうだい」
熱々でお願いします。
「いらっしゃいませ」
忙しくても挨拶を欠かさない。わかってるわ。それが一番大事。
「はい。肉うどんお待ち」
いいわね。あれもきっと正解ね。
「いらっしゃいませ。食券をどうぞ」
ここはとても狭い店ね。もうすぐ満員御礼よ。5パーセントは還元されるのかしら。だったら私はPayPayで還元を受けるわ。今すぐ青青とした葱で還元させていただくとするわ。きつねが隠れるほどの還元で今年いっぱい私は生き残るのよ。葱は強く強く私を引っ張るのだわ。
「はい。カレーうどんね」
ああ。なんてよさげな匂いでしょう! あなたの勝ちよ。カレーを選んだ者に負けはないの。それくらい知っていたけど今日の私はきつねに流された。敗れ去ったのはたぬき。だけどほんの紙一重だったわ。
「はい。ハイカラうどん」
また私のじゃない。遅いわね。私のだけ来ないのね。私はここでよかったのかしら。私の正解はここだったのかしら。もうすぐ電車が来るわ。発車のベルがもう鳴り響いているわ。行き先を知る人が乗っていくの。みんな私を置いて行くのね。
「はい。たぬきお待ち」
やっぱり誰かのたぬきなのね。
「いらっしゃいませ。食券をどうぞ」
私のじゃない。ここはそういう店ね。
みんな私を追い越していくの。私だけが通らないのね。
「いらっしゃいませ。食券をどうぞ!」