無台
ずっと楽しみに取っていた
自陣に埋めて無敵の城を構築する
中盤に放って制空権を確保する
ぎりぎりまで引きつけて
大将を一気にしとめる
掌と読みの中で
あふれるほどに
シャッフルしながら
ずっと楽しみに取っていた
主役を張る金や銀
とっておきの飛車
一枚一枚拾い集めてきた歩
数え切れないほどの歩
「先生。きれいにしておきましたよ」
離席している間にそれはきれいさっぱり片づけられていた
落ち葉を一掃したあとの道のように
駒台の上には何もなくなった
「もういらないだろうと思いまして」
彼は立派に自分の仕事をしただけだ
「ああ」
責めも感謝もしていなかった
五段はあぐらのまま窓の外をみた
もう一度風が吹いたら……
振り駒からはじめようか