郵便配達員さん
二十歳くらいのとき。
大学をサボって、
朝からビールの抜け切らない日だったと思う。
『ドンドン!』
ボロアパートの扉を叩く音がする。
『郵便でーす』
いやもぅ、配達されたものが何だったのか
記憶はまるでないのだけれど、
代引きだったことは微かに覚えている。
財布をみてみたが、わずかに小銭が足りなかったはずだ。
まいったな。コンビニまでは往復でけっこうな時間を食う。
万札があったのか、釣りを問うと
郵便局員には手持ちがないという。そんな状況であった。
よし。ちょっと面倒だがコンビニに行くか。
『すいません。すぐに戻ってくるんで
待っていてもらってもいいっすか』
局員さんもわりと若く、当時の僕とそう変わらない。
たぶん二十代だったろう。
ダメな僕とは対照的に労働の最中にあって
そんな時間はない。
『いや、だいじょぶッス。これでいいッス』
できる男の即断だった。
『え…いや、でも』
『いや、イッス。自分(局員さん)が損するだけなんで』
なにを届けてもらったのか、
代引きの額はとうぜんハナからわかっていたはずで
用意しておかなかった僕に非がある。
底なしにダメな僕と
生活を背負う若者の、すべてが対照的な時間であった。
配達員の時給は今も昔も生活にゆとりを与えてくれない。
あの青年は今、どうしているだろうか。
ありがとう。
ただ、それを伝えたくてー。
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