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「リーダーは最後に食べなさい!」(サイモン・シネック)

 これからリーダーになる人やリーダーシップを考える方に向けた、おすすめのリーダーシップ書籍を紹介します。この書籍はリーダーシップスキルを向上させ、効果的なチームマネジメントを実現するための洞察を提供します。リーダーとしての成長を目指す全ての方に役立つ内容です。


著者のサイモン・シネックとは?

 Wikipediaによると、サイモン・シネックさんは1973年生まれのイギリス出身アメリカ人です。広告会社で勤務した後、自身の会社を立ち上げ、講演家としてのキャリアをスタートしました。

 代表的な著書には『Whyから始めよ!』があり、その内容に関連した2009年のTED講演は6500万回以上の再生回数を誇る人気講演です。

 Googleで検索すると「世界で最もリーダーシップを分かりやすく語れる人」や「深い洞察に基づいたリーダーシップ哲学」などの賛辞が見つかります。しかし、私の周囲では「知ってる!」という人が少ないため、一般的な認知度はこれからさらに高まるのかもしれません。

この本が教えてくれること

  この本は、「リーダーシップの素晴らしさ」だけでなく、「リーダーシップの残酷な一面」と、その残酷さの背景にある体内ホルモンや歴史・社会の観点を交えて解説しています。

 また、第6章には「リーダーのための5つのレッスン」という、ビジネス書らしい実践的な内容も含まれており、「ここだけでも読んでおけ」という重要なパートでもあります。

 一方で、著者は「なぜ、現代にこのようなリーダーシップが広がってしまったのか」を切実に訴えています。一時期の急激な経済拡大に伴う「もっと!もっと!」という依存的な傾向が、私たちが安心して帰属意識を感じられる「サークル・オブ・セーフティ」を破壊しているのではないか、というのが本書の主張です。

「サークル・オブ・セーフティ」とは?

 終身雇用制が崩壊し、リモートワークが一般的になりつつある現状においても、多くの人が安心して帰属意識を持てる環境で働きたいと望んでいます。

 たとえ、労働条件が完全には満足できないものであっても、上司や同僚から気にかけてもらい、承認を受け、いざ、職場の人が困ったら、全員で力を合わせて助け合う・・・。こうした職場は、今の世の中では過去のものに思えるかもしれませんが、本書では以下のエピソードを通じて、そのような職場の姿を生き生きと描いています。

あるとき、ペイント部門の従業員が私生活で危機に直面した。糖尿病を患っていた妻が、片脚を失うことになったのである。彼には妻の介護をする時間が必要になったものの、時給制で働いているため、勤務時間を減らせば手取りが減ることになる。だが彼は、手取りが減ったら暮らしていけなかった。とはいえ、彼はいま、以前とは大きく変貌を遂げた企業で働いていた。そこで同僚たちは、自分たちの有給休暇を彼に譲り、彼に有給休暇をとってもらう計画を立てたのである。これまで、従業員からこのような提案をされた前例がなかった。それどころか、その提案はあきらかに会社の就業規則に反していた。だが、それは問題にはならなかった。「私たちは、同僚のことをもっと思いやるようになっていました」と、マイク・メレクは言う。こうして管理部門の人間の力を借り、かれらはプランを実行に移した。

同書の第2章より

 このように「安心感の砦」に包まれている環境を、本書では「サークル・オブ・セーフティ」と呼んでいます。このサークルをどれだけ広く、また自分の影響範囲を超えて有機的に形成できるかが、リーダーとしての力量を示します。

タイトルにある「最後に食べる」とは?

 序文の次の一説が、「最後に食べる」=「リーダーシップに対して周囲が期待する本質」を表しているように感じます。

海兵隊員たちが食事をしている場に同席すれば、もっとも下位の者が最初に食事を配られ、もっとも上位の者が最後に配膳されることに、あなたは気づくはずだ。また、命令はいっさい出されていないことにも気づくだろう。このシンプルな行動の核には、リーダーシップに対する海兵隊の考え方がある。海兵隊のリーダーたちは、いちばん最後に食事をするのが当然だと見なされている。というのも、リーダーシップの真価は、自分の要求より、他者の要求を優先することにあるからだ。偉大なるリーダーは、特権を与えられているからこそ部下のことを心から気にかけ、私利私欲を捨てねばならないことをよく認識している。

同書の序文より

 要するに、リーダーには地位的・報酬的な特権がその役割に応じて与えられますが、それは周囲が「このリーダーであれば自分のことを気にかけてくれる、安心感の砦の中で働ける」という期待があるからこそなのです。

 リーダーは、周囲の人々の考え方がたとえ違っていても、自分の時間とエネルギーを惜しまずに見守るべきだ、という「社会契約」が存在します。そこを見失ったときに、組織は機能を失い始め、ストレスが蔓延する職場になると著者は説きます。

なぜ「安心感の砦」は崩れるのか?

 本書の魅力は、単なる「あるべきリーダー論」にとどまらず、生物学的・社会的な背景にまで切り込み、なぜ安心感の砦が失われるのかを議論している点にあります。

 まず、リーダーが周囲を「個人」として見るか、「集団」として見るかという違いがあります。「集団」として周囲を認識すると、途端に「頭数」が気になり始め、冷酷な態度を取ることもあります。企業にとって「顧客」と抽象化した時点で、責任意識が低下することもあります。

 さらに、著者は経済成長や規制緩和の「イケイケドンドン」の段階では、興奮物質である「ドーパミン」が分泌され、その中毒性から「もっと!」と拡大意欲が先立つと論じています。

 「勝ちたい」「自分第一主義」という考え方が、いつしか周囲への思いやりを損ない、安心感の砦を少しずつ崩壊させていきます。しかし、その安心感の砦こそが、人々が安心して創造的に働き、成果を出すための源泉であることに気づいていないのです。

依存症から抜け出すには

 それでは、そんなドーパミン依存から抜け出すにはどうすれば良いのか。著者はアルコール依存症患者の会を例にとり、こう論じています。

AAに参加した人はたいてい、ステップ12まですべて実践できてこそ、断酒に成功し、その後の人生を深めていけることに気づく。ほかの11のステップをすべて実践できたとしても、ステップ12まで完了できないかぎり、また飲酒を始めてしまう確率が高いのだ。

ステップ12では、みずからの依存症を克服するために、ほかのアルコール依存症患者に支援の手を差しのべることを明言する。すなわちステップ12とは、奉仕の精神である。

そして、私たちの組織内部のドーパミン依存症を断ち切るのもまた、ほかでもない奉仕だ。とはいえ、これは顧客、社員、株主への奉仕ではない。本物の、生きている人たち、日々一緒に働いている、実際に知りあうことのできる人たちへの奉仕が鍵を握っている。

AAのミーティングが、オンラインのチャットルームではなく、教会の地下やレクリエーションセンターでおこなわれている理由も、ここにある。また依存症の患者がAAの先輩メンバーに助言を求めるとき、ただメールを送るのではなく、実際に電話をかける理由も、ここにある。依存症を克服するには、ふたりのむすびつきが本物でなければならない。バーチャルでは駄目なのだ。

同書の第25章より

 奉仕・無私の精神を発揮することで、今ハマってしまっているかもしれないスパイラルから、抜け出せるのかもしれません。

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