ブーマー爺さんがくれた勇気
小型飛行機の免許を取るには昼夜一回ずつ国際空港に着陸し、空港の着陸証明書が必要だ。ボーマー爺さんが妻のイザベルと経営するBomar FieldShelbyvilleMunicipal-Airportに興味本位に出かけて行ったのが運のつき。“軽飛行機”がどんなものか、出来れば一回でもいいからテネシーの自然を、アメリカの大地を空から見たいと思い訪ねたのが、国際空港に単独飛行する羽目になってしまった。今思うと、生徒もいなく、“いい鴨”に思われていたかもしれない。ただ、“英語もろくに話せない鴨”だったとはその日のボーマー爺さんは想像しなかっただろう。そんな出会いから4ヶ月、タッチアンドゴー、ソロフライトなど免許取得に向けて空の旅を楽しんでいる自分がいた。ただ、この日は国際空港へのフライトだ。多少は慣れてきていたものの、流石に不安が残っていた。
“Nashville Tower“This is Cessna 207F“request landing”ボーマー爺さんが所有する小型単発機はこの一台だけ。機体は1970年製。15年前に製造された機体だが、さすがにエンジンは十分すぎるほどメンテされておいて、キーを回すとエンジンは”バリバリ“と力強く回転した。ただ、どう見ても無線機は寿命にきている。こんな無線機で果たして管制塔と交信できるのかと不安が増す。“Nashville Tower”“Cessna 207F,depart Tokyo, request contact”“おいおい”、“待て 待て”、“落ち着け。東京からではないぞ”。“Nashville Tower”“Cessna 207F,depart KSYI, contact please”機体は私の不安や極度の緊張を無視し直進して行く。遠くに滑走路が目視できるところまで近づいてきた。まだ、交信できていないが、後戻りは出来ないのだ。直進あるのみ。“Cessna 207F, Welcome to Nashville from Tokyo. This is Nashville tower”“Make straight-in runway 20C right”“おいおい、俺の無線、聞こえているじゃないか”。“早く答えてくれよな”。“Roger”“ Cessna 207F make straight-in runway 20C right”“Nashville tower. Delta 321 Cessna 207F approaching runway 20C right” この大空で僕は一人ぼっちではない。管制塔もデルタのパイロットも私を見ている。それはそうだ。何かあると彼らのほうが大変だ。そう気付くと急に安堵と自信が沸いてくる。着陸に集中 集中。緊張のため上昇する機体の高度を保つため計器に集中する。機体の前方に巨大な滑走路が迫ってきた。よし、行くぞ。
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