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ADP雇用統計、FOMC議事録分析

【予想通りの結果を示したデータ / FRB / トランプ】

1月8日、市場に影響を与えた要因はデータ、FRB、そしてトランプであり、いずれも予想通りの結果となりました。


【データ:ADP雇用統計 / 週間失業関連データ】


昨夜発表された雇用関連のデータは2つありました。一つは予想より弱く、もう一つは予想より強いものでした。

そのため、全体として中立的な結果と見ることができます。

まず、ADPが発表した月次雇用統計によると、非農業部門の雇用増加は予想を下回りました。

米国経済は再加速するという話もありますが、雇用市場はゆっくりとバランスの取れた状態に向かっています。

・ 非農業部門雇用増加:12.2万人(予想13.9万人、前月14.6万人)

また、賃金上昇率については前月に一時的に上昇しましたが、再び下落する結果となりました。

いずれにせよ、ディスインフレーションの状況です。


【失業関連データ】


失業データは予想よりやや良い結果となり、失業はほとんど発生していない状況です。

・ 新規失業保険申請件数:20.1万人(予想21.4万人、前週21.1万人)
・ 継続失業保険申請件数:186.7万人(予想187.0万人、前週修正値183.4万人)

失業率が低く、雇用増加も低調な現在の傾向をそのまま反映した指標の組み合わせであると考えられます。


【トランプと関税】


トランプの就任日(20日)が近づくにつれ、関税に関する議論がさらに増えています。

関係者によれば、トランプが報復関税を課すために国家経済非常事態を宣言する可能性があるとされ、このニュースを受けて株価が急落し、金利が上昇しました。


【FRB:クリストファー・ウォラー発言 / 12月FOMC議事録】


昨夜、FRBのウォラー理事が発言を行いました。

ウォラー氏はインフレに対してやや楽観的な見解を示しました。最近の物価が想定より粘着的(硬直的)になる可能性が懸念されていますが、ウォラー氏は、今後数カ月間物価が再び上昇しなければ、3月までに「ベース効果」によって物価上昇率が低下するだろうと見ています。

また、最近の金利引き下げ速度を遅らせるべき、または停止すべきだという声が出ている背景について、12カ月間の物価上昇率がほとんど進展していないことを指摘しました。

つまり、さらに前年比で物価上昇率が低下すれば、予定通り金利引き下げが実現する可能性があると見られます。

結論として、ウォラー氏は金利引き下げサイクルが終了していないと見ているようです。

ここで言う「今後数カ月間物価が再び上昇しなければ」と「ベース効果」は、昨年の初頭に見られた現象を指します。

2024年初頭、物価の「初頭効果」(物価が年初に高くなる現象)が強く表れました。

• 月次ベース効果:1月+0.50%、2月+0.24%、3月+0.34%、4月+0.26%
• 1~4月の平均上昇率は+0.333%で、5~11月の平均+0.181%を上回りました。

ウォラー氏は、2025年にこの「初頭効果」が弱くなれば、物価上昇率が急速に低下する可能性があると指摘しました。

また、ウォラー氏はトランプ政権時代に最後に任命されたFRB理事であり、パウエル議長が退任した場合、現職理事の中から選ぶとすれば最有力候補とされています。

さらに、FRB加入以来、経済動向を最も的確に予測した人物とも言われています。

もし今後月次で+0.2%の上昇率が続けば、コアPCE(個人消費支出)物価上昇率は現在の+2.8%から2025年3月には+2.35%、4月には+2.29%まで低下すると見られます。ウォラー氏はこの可能性を指摘しました。


【FRB:12月FOMC議事録】


続いて、FRBの12月FOMC議事録が早朝に公開されました。

市場はこれが非常にタカ派的(引き締め的)な内容である可能性を懸念していました。それは、12月FOMC会議当時の状況を思い起こさせたからです。

当時、市場はFRBの行動を非常にタカ派的と受け止め、その日の株価も芳しくありませんでした。しかし、実際に議事録を確認してみると、当時の水準を大きく外れる内容はなく、平凡な内容で構成されていました。

その結果、上昇していた金利は横ばいに転じ、下落していた株価も横ばいに戻りました。


【議事録をより詳細に分析 - 金利引き下げ速度の鈍化に注目】


議事録を全体的に見ると、FRBは連続的な政策金利の引き下げから、今後は「据え置き→引き下げ」といった形でペースを調整しながら進む方向に変わったことが分かります。

この点は12月FOMC会議でFRBが示した姿勢そのままであり、特に新しい点はありませんでした。


【議事録をより詳細に分析 - トランプ政策の反映度】


市場の関心はFRBそのものではなく、トランプの関税政策がどの程度FRBの将来予測に反映されているかにあります。

会議当日、パウエル議長は「数名(some)」がトランプ政策の潜在的な影響を予測に反映したと述べました。
Some people did take a very preliminary step and start to incorporate highly conditional estimates of economic effects of policies into their forecast at this meeting and said so in the meeting.

しかし、今回の議事録では「多くの(a number of)」委員がトランプ政策の潜在的影響を予測に反映したと記されています。
A number of participants indicated that they incorporated placeholder assumptions to one degree or another into their projections.

これを見ると、パウエル議長が「数名」と述べていた時点でも、トランプ政策の不確実性を反映していない状況で物価上昇リスクが高く評価されていたことが分かります。

仮にトランプが実際に政策を実行した場合、12月の経済予測やドットプロット以上にFRBがタカ派的に反応するのではないかという懸念がありました。

これは資産市場の立場からすると、安堵のため息をつかせる違いです。

その理由は次のチャートに示されています。以下は昨年12月のFOMC会議時に出された「FRB委員たちが見ているインフレリスクがどの方向に向かっているのか」に関する資料です。9月と比べて、インフレが上昇するリスクが高まったとFRB委員たちが圧倒的に支持していることが示されています。

しかし、今回の議事録を見ると、実際には「数名」ではなく、「多くの」委員が既に反映していたことが明らかになりました。


【議事録をより詳細に分析 - 資産価格の高騰リスクについての懸念】


最近、リサ・クックFRB理事が資産価格のバリュエーション(評価額)が上昇していることを指摘しました。

これに関連して、FRBが資産価格の高騰についてどれほど懸念を抱いているかが今回の焦点の一つでした。

議事録によると、この点に言及したのはわずか2名のみでした。

<2名の委員は、金融市場における楽観的な心理と経済活動のモメンタムが物価に引き続き上昇圧力を加える可能性があると判断しました。>
A couple of participants judged that positive sentiment in financial markets and momentum in economic activity could continue to put upward pressure on inflation.


【今後もよく見られる組み合わせ】


先週水曜日の状況は、今後もよく見られる組み合わせです。それはデータ、FRB、そしてトランプという要素です。

• データについては、雇用が「熱くも冷たくもない(low hiring, low firing)」状況であり、物価については今年の年初効果が弱い可能性が指摘されています。

• 次にFRBについては、トランプ政策への懸念を持ちながらも、同時に物価の安定と健全な景気の継続的な拡張を基盤として、慎重に現在のスタンスを維持するという姿勢が見られます。

• 最後にトランプは引き続き強硬な発言を繰り返すでしょうが、その大部分は既に市場価格に織り込まれているという点です。


市場はこれらの組み合わせを最終的にうまく消化しながら、想定より良い方向に進んでいくと見られています。懸念とは異なる結果になるでしょう。

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