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トランプがグリーンランドを購入しようとする理由

2024年11月8日、ジョージア州選出の共和党下院議員マイケル・コリンズは、X(旧Twitter)に以下のような地図を投稿した。

「Project 2029」という言葉の下にアメリカの選挙区地図が描かれており、その地図にはグリーンランドもアメリカの選挙区に含まれていた。

ここから次の2つのことが分かる。

アメリカの領土と比べても、グリーンランドが非常に大きな島だということ、そしてグリーンランドに対する欲望はトランプだけの考えではないということ。

トランプは第1期の在任中である2019年に、グリーンランドの購入交渉を検討していると明らかにしたことがあった。

デンマークの首相が「グリーンランドは売り物ではない。アメリカの購入検討が真剣な考えではないことを強く願う」と反発したことで、この話は立ち消えになった。

トランプは機嫌を損ねて、予定されていたデンマーク訪問をキャンセルし、NATO同盟国であるアメリカとデンマークの間には一時的に不穏な雰囲気が続いた。

再選に成功したトランプは、ケン・ハワードをデンマーク大使に任命した。

任命式の場でトランプは「国家安全保障と世界の自由のためにグリーンランドの所有権と支配が絶対に必要だ」と述べ、再びこの問題を提起し始めた。

グリーンランドが重要な理由は大きく2つある。

1つ目は、グリーンランドの永久氷が急速に溶けていることだ。

日本の9倍の面積を持つグリーンランドは、島の80%以上が平均厚さ1.5kmの永久氷で覆われている島である。

グリーンランドの永久氷は1980年代に比べて6倍の速さで溶けている。

北極の永久氷が溶けるほど気温が上昇すれば、グリーンランド周辺の北極海が開けることになる。

2年前に起きたウィスキー戦争を見ると、周辺各国が北極海をどのように捉えているかが分かる。

グリーンランドを所有するデンマークとカナダは北極で国境を接している。

1973年、デンマークとカナダは両国間の曖昧だったナーズ海峡の国境線について合意した。

ハンス島(Hans Island)という、1.3sqkmの小さな島を巡り、この島の左側はカナダ、右側はデンマークと国境線が合意された。

国境線の決定は順調に終わったが、実務者の手違いでハンス島がどちらの国のものかを決めずに会議が終了してしまった。

1984年、カナダ軍がハンス島に上陸した。

カナダ軍はカナダ産のウイスキーを地面に埋め、ハンス島にカナダの国旗を立てて所有権を先に主張した。

デンマークは大臣をハンス島に派遣し、カナダ軍が埋めたウイスキーを掘り出し、その場所にデンマーク産のブランデーを埋めてデンマークの国旗を立てた。

その後も両国は頻繁に人を送り、自国のウイスキーと国旗を掲げるパフォーマンスを続けた。

これが「ウイスキー戦争」と呼ばれるようになった理由である。

両国は少しの遊び心とプライドの争い程度でハンス島のウイスキー戦争を続けた。

どうせあまり役に立たず、海峡も凍りついて船がまともに通れない場所の小さな島だったからである。

地球が温暖化し、グリーンランドの永久氷が溶け始めると、突然事態が大きくなり始めた。

2035年には、このナーズ海峡の氷がほとんど消え、氷で塞がれていた海路が開かれるという分析がアメリカから出ている。

ナーズ海峡の海路が開かれるということは、大西洋と太平洋を結ぶ航路が開かれることを意味する。

ハンス島は、大西洋と太平洋を結ぶ航路の戦略的要衝となる場所だった。

過去には、アジアからヨーロッパに行くためにはアフリカの喜望峰を回らなければならなかった。

その距離はなんと14,000kmにも及んだ。

スエズ運河ができてからは、長﨑からヨーロッパまでが14,000kmから10,000kmに短縮され、4,000kmが削減された。

スエズ運河よりもさらに速い近道がある。

それが北極海航路である。

ロシアの北極海航路を通れば、14,000kmが7,000kmに短縮される。

40日以上かかっていた運航時間が28日以内に短縮され、その分燃料も節約できる。
海賊の危険がなくなるため、スエズ運河を通る場合より保険料が大幅に安くなる。

問題は気候だった。

これまでは氷が解ける夏の2ヶ月程度しか運航が可能ではなかった。

地球温暖化によって氷が解け、北極が徐々に海に変わり始めた。

数年前からは春から秋にかけて6~7ヶ月程度はある程度の運航が可能になってきた。

四季を通じた運航も不可能ではない。

砕氷船が氷を砕いて進み、その後ろを追従するか、または砕氷能力を持つ船で進むという方法だ。

北極の氷が解けることで、これまで氷で塞がれていた場所にこうした航路が生まれることになった。

北極航路が本格的に運用されれば、戦略的要衝となるハンス島の所有権は両国が折半することで合意され、円満に終了した。

北極海航路は日本とも関連がある。

北極海航路が開かれれば、太平洋側では日本が最適な中継拠点になり得る位置にある。

長崎や横浜に中継港を設ければ、そこまで通常の船で運び、その後砕氷船に荷物を積み替えて北極航路を進むコースが考えられる。

ロシアが進めているヤマルプロジェクトも、砕氷LNG運搬船と北極海航路を利用したLNG輸送が核心となる事業である。

砕氷LNG運搬船の例としては、商船三井の「ウラジミール・ルサノフ」が挙げられる。

砕氷LNG船は氷を砕けるように船体を厚くし、前後進可能な強力なエンジンや船の隅々にヒーターを設置するなど、多額の費用がかかる。

砕氷LNG運搬船は通常の船の1.5倍の建造コストがかかるが、収益性の高い船であり、韓国のハンファオーシャンが主導している。

ロシア・ウクライナ戦争の影響でロシアが注文した砕氷LNG運搬船の代金支払いに問題が生じているが、戦争が終わればこの案件が再び注目される可能性がある。

中国も北極航路に関心を示している。

北極航路を「一帯一路」に統合するという政策目標を盛り込んだ北極白書を公表している。

2024年8月、ロシアと中国は北極航路協力委員会を設立し、11月には委員会の運営原則などに合意するなど進展を見せている。

アメリカも黙ってはいない。

アメリカ、カナダ、フィンランドは11月末に「砕氷船協力計画(Icebreaker Collaboration Effort、略称ICE協定)」という覚書を締結した。

アメリカとNATO加盟国は、ロシアに比べて砕氷船の能力で劣勢にあるため、力を合わせるという考えである。

アメリカは、今後重要性を増す北極海航路の戦略的先取りを目指して、グリーンランドに対して野心を抱いている。

グリーンランドに対するアメリカの野心が実現可能かどうかは、グリーンランドの内部事情とアメリカが正当な理由を持っているかを総合的に見る必要がある。

ネオジム(Nd)を磁石に加えると磁性が強化され、電気自動車や風力発電機などの高効率機器に使える磁石になる。

ネオジム磁石を作る際に重希土類であるディスプロシウム(Dy)を加えると、高温でも性能が維持される。

ネオジム磁石は現在、世界中で高性能発電機や電気自動車などに必須で使用されている。

ディスプロシウムは希少で採掘が難しい資源であり、主な生産地は中国とミャンマーである。

2024年に中国とミャンマーでディスプロシウムの採掘に支障が出ると、供給不足が発生する可能性がある。

中国は希土類生産の世界シェア90%を占めている。

ディスプロシウム以外にも、中国は重希土類の主要鉱山を多数保有している。

中国の希土類独占に対するアメリカの不安感はますます高まっている。

アメリカは中国への希土類依存を減らすため、新しい鉱山の開発に投資している。

2024年6月、ミャンマー内戦の影響で中国の希土類採掘問題が深刻化する可能性がある。

アメリカの風力発電機には大量の希土類と重希土類が必要である。

世界的に希土類の需要は今後も増加し続けると予想されている。

2024年以降、中国の希土類輸出統制が予測されている。

希土類不足は世界経済に深刻な影響を与える可能性がある。

アメリカ、EU、日本は希土類確保のための協力を強化している。

ディスプロシウム(Dy)とネオジム(Nd)は次世代エネルギー技術の中核資源と見なされている。

希土類を巡る国際競争がさらに激化する見通しである。

軽希土類は世界各地に広く分布しており、埋蔵量が多く、採掘の難易度も高くないため、供給は十分な状態にある。

元素記号65番のテルビウム(Tb)から71番のルテチウム(Lu)までの重希土類、特に66番のディスプロシウム(Dy)が重要である。

ディスプロシウムは1886年にフランスで困難な工程を経て分離された。

研究者たちは分離過程で大変な苦労をしたため、「到達が困難」という意味のギリシャ語、**δυσπρόσιτος(デュスプロシトス)**にちなんでディスプロシウムの名前が付けられた。

モーターには磁石が使われており、回転によって電気を生み出している。

ネオジムを使って磁石を作ると磁力が10倍以上強くなるため、その分磁石を小型化できる。

ネオジム磁石は高速回転させると高熱が発生し、磁石の性能が低下するという問題がある。

ネオジム磁石を作る際に重希土類であるディスプロシウムを加えると、高熱でも磁石の性能が低下しない。

高速かつ強力な発電を続けなければならない高性能発電機や電気自動車のモーターなどの永久磁石に重希土類であるディスプロシウムが使われる理由である。

重希土類は現在、中国の江西省とミャンマーで大部分が採掘されている。

中国が生産する重希土類の約60%はミャンマーの鉱山で採掘されている。

2024年6月初め、ミャンマーの希土類鉱山で地滑り事故が発生し、鉱夫たちが亡くなった際、中国人の死者が出た理由である。

10メガワットの発電容量を持つ風力発電機1基には約2トンの磁石が使われ、その磁石には160kgのディスプロシウムが含まれる。

テスラの電気自動車1台にも約100gのディスプロシウムが使われるなど、希土類の中でもディスプロシウムは再生可能エネルギー分野で重要な資源である。

最先端の兵器も同様である。

F-35を製造するには、1機あたり417kgのネオジム-鉄-ボロン永久磁石が使われ、その永久磁石にはディスプロシウムが加えられている。

現在、ディスプロシウムは年間約1000トンしか生産されておらず、風力発電機の製造に必要な量さえ不足している状況である。

アメリカが不安を抱くのは、最先端の軍事兵器にもディスプロシウムが使われており、それを中国産以外で代替する方法がないことである。

軽希土類は代替が可能である。

軽希土類はアメリカにも多く埋蔵されているが、環境問題のため採掘されておらず、オーストラリアなど世界各国で供給が可能である。

問題は中国とミャンマーで採掘される重希土類であり、現在中国が世界供給量のほぼ全てを担っている点である。

中国とミャンマーを除くと、ディスプロシウム鉱山が存在するのはグリーンランドである。

グリーンランドには世界中の重希土類の44%が埋蔵されている世界最大規模の重希土類鉱山が存在するためである。

グリーンランドはほとんど人が住んでいない地域であり、希土類の採掘や精錬による住民の環境汚染被害が少ないという点も利点である。

グリーンランドでは中国とアメリカが希土類戦争の第1ラウンドを繰り広げたことがある。

昨年のグリーンランド総選挙は希土類をめぐる選挙だった。

クヴァネフェルト鉱山で希土類を採掘するかどうかをめぐり、総選挙で与党と野党が激突した。

グリーンランドのクヴァネフェルト鉱山とタンブリッジ鉱山は、グリーンランドで希土類埋蔵量が最多の2大鉱山である。

グリーンランド南部に位置するクヴァネフェルト鉱山は、軽希土類と重希土類、ウラン、亜鉛などが11億トン以上埋蔵された世界最大級の鉱山である。

タンブリッジ鉱山は埋蔵量が4.4億トンでクヴァネフェルトより少ないが、重希土類(ディスプロシウム、イットリウム、テルビウムなど)が多く含まれている鉱山である。

クヴァネフェルト鉱山はオーストラリア系鉱山会社のグリーンランドミネラルズが中心となり、開発が進められていた。

グリーンランドミネラルズはオーストラリア企業だが、最大株主が中国企業の盛和資源であるため、中国系企業と見なされる。

総選挙で与党が勝利すれば、クヴァネフェルト鉱山は中国主導で開発され、重希土類市場で中国の独占力がさらに強化される状況だった。

野党が総選挙で勝利し、グリーンランドミネラルズ主導のクヴァネフェルト鉱山開発は即座に保留された。

グリーンランド総選挙は、米中間の希土類確保戦争において重要な選挙だった。

グリーンランド議会がクヴァネフェルト鉱山開発を保留すると、2007年から投資してきた中国系グリーンランドミネラルズは黙っていなかった。

グリーンランドミネラルズは、鉱山開発許可が下りなければ115億ドル規模の損害賠償を求める国家訴訟をコペンハーゲン仲裁裁判所に提起した。

重希土類が集中して埋蔵されているタンブリッジ鉱山は、今年5月にアメリカの鉱物開発会社クリティカルメタルズ(CRML)が買収した。

グリーンランド政府は、クヴァネフェルト鉱山の許可書に「政治的理由で鉱山開発を中止できる」と記された条項を見つけ出し、これに基づいて対応している。

世界で年間約1,000トンのディスプロシウムが生産されている中、ディスプロシウムだけで760万トン埋蔵されている鉱山をアメリカ企業が確保したことになる。

クヴァネフェルト鉱山とは異なり、タンブリッジ鉱山は既に採掘許可が下りており、短期間で希土類の生産が可能と見込まれている。

世界的に大きな利益が見込まれる案件には、必ず現れる2人がいる。

投資で大きな利益が得られる場所にはウォーレン・バフェットが現れ、新技術で大きな利益が期待される場合にはイーロン・マスクが現れる。

イーロン・マスクのスターシップも重希土類確保に関与している。

スターシップは、上部の50メートルのスターシップと下部の70メートルのスーパーヘビーを組み合わせた2段式ロケットである。

スターシップの最終目標は火星だが、月面着陸が先に進められる予定である。

NASAが進めている有人月面着陸計画「アルテミス計画」で使用される月面着陸船にスターシップが選定されたためである。

月面には過去のような小型の月面着陸船ではなく、50メートルの月面着陸船が降り立つことになる。

月面には核融合の原料であるヘリウム3が存在するだけでなく、表層には他の鉱物も存在する。

それがディスプロシウムである。

イーロン・マスクはNASAとともに、月面の希土類などの希少資源の供給ラインを構築する計画をしている。

米中間の希土類戦争はグリーンランドから始まり、宇宙にまで広がっている。

中国がミャンマー内戦に関与している理由の一つは、ミャンマーに重希土類鉱山が存在することである。

1979年に締結された国連月協定では、「月面やその一部、または天然資源は国家や自然人の所有物にはなり得ない」と規定されている。

国連の協定はあるものの、アメリカ、中国、EUなどの大国は署名しておらず、月の資源は先に確保した者が手にする競争になると見られる。

2019年8月、アメリカはトランプの主導で、陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊に次ぐ第6の軍隊として宇宙軍を創設した。

アメリカが月基地の建設準備を進め、宇宙軍を創設して備えているのは、新たなエネルギー確保を近い将来の目標としていると考えられる。

しかし、月の資源開発は多くの時間が必要な事業である。

すぐに採掘が可能なグリーンランドを確保することが、中国が米中対立のカードとして希土類を利用する際の代替策となり得る。

トランプはグリーンランドの財政の60%を税金で補助しているデンマークの納税者たちを狙い始めている。

2024年12月19日、トランプは「グリーンランドに毎年7億ドルを補助してデンマーク経済が損をしているが、同盟国のアメリカがデンマークを支援することができます」と発言している。

グリーンランドは豊富な天然資源を持ちながらも、主に漁業で生計を立てる貧しい先住民が人口の80%を占め、デンマークの補助金に依存して生活している。

デンマーク政府はグリーンランドへの補助金が負担ではあるが、それでもグリーンランドを売却する状況には絶対にならないという立場を取っている。

トランプが強気な発言を続けているが、グリーンランドに米軍基地を拡大し、アメリカが既に確保した希土類鉱山に加え、重希土類鉱山を追加で確保する形で終わる可能性が高い。

中国がアメリカの報復関税に対抗するカードとして希土類を検討している。アメリカも中国の動きを察知しているため、グリーンランドに強い関心を寄せているようだ。

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