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DEEP SEEKとアメリカ株の相場に関する分析
[ 日本、金利決定 - 予想通りの引き上げ決定 ]
日本が金利引き上げを決定しました。
すでに10日前から報道を通じて引き上げの可能性が強く示唆されていたため、市場は大きな反応を示しませんでした。
市場の一部では、2024年8月のようなパニック事態が再び発生するのではないかという声もありましたが、当時とは状況が異なります。おそらく今後も日本銀行が金利決定会合を開くたびに、円キャリートレード解消によるパニック懸念が話題になるでしょう。ただし、会合前には以下の2点を確認しておくと良いでしょう。
まず、米日金利差の動向とドル円為替レートの動きです。通常、米日金利差に連動してドル円為替レートも動きます。最近もその傾向通り金利差に合わせて為替レートが動いていました。ただし、2024年8月直前の状況では、通常とは異なり逆方向に動いていました。これは何かファンダメンタルズに反して、大規模な投機的取引が行われたことを示しています。
次に、投機的ポジションについてです。以下はドル円に対する投機的ポジションの推移を示したものです。グラフが下に向かうほど、円安への賭けが強いことを意味します。最近では、若干の円安への賭けは見られるものの、2024年7月のような大規模な動きは見られませんでした。
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このように、内外金利差に応じて為替が動き、円に関するポジションに特異な動きが見られない場合、日本銀行の決定に対して過度に警戒する必要はないでしょう。
[ 米国/欧州PMI、予想外に好調な欧州 - 予想より弱かった米国 ]
次にPMIについてです。2月のマークイットPMI速報値が発表されましたが、予想に反して欧州が好調でした。昨年8月以降で最も高い数値を記録し、基準線を上回りました。
欧州総合PMI: 50.2(予想: 49.7、前月: 49.6)
一方で、アメリカの場合、製造業は予想を上回ったものの、サービス業は予想を下回りました。
アメリカ製造業PMI: 50.1(予想: 49.7、前月: 49.4)
アメリカサービス業PMI: 52.8(予想: 56.4、前月: 56.8)
市場は当初、「景気低迷の欧州 vs. 好調なアメリカ」という期待を持っていました。しかし、欧州が回復を見せたことで、ユーロが強含みとなりました。
これまで市場は欧州の景気低迷、そしてそれに伴う金融政策の差別化(=欧州がアメリカよりも金利を大幅に引き下げるだろうという予測)を織り込み、ユーロ安へのベッティングが強く行われていました。
以下はユーロに対する投機的ポジションの推移です。グラフが下がるほど、ユーロ安への賭けが強いことを示します。しかし、マークイットPMIが予想外の結果を示したため、ユーロ安からの一部反発が見られました。
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これまで欧州は一時的な要因に多く影響を受けていました。昨年夏には、フランスのオリンピックの影響で実際よりもサービス業が好調に見える形でPMIが発表されたことがありました。その後、その反動でPMIが低迷しました。また、11月のアメリカ選挙における不確実性もPMIにマイナスの影響を与えました。しかし、これらのノイズが統計から徐々に解消されつつあり、サービス業の反発がより強くなった形です。
そして今、この両者は過去の平均的な成長率にほぼ近づいた状態に達しました。コロナによる一時的な影響がついに解消されたとみられます。そしてこれは、今後両者の差が解消される可能性を示しています。つまり、製造業の景気を過度に悪く評価する必要も、サービス業の景気を過度に良く評価する必要もないということです。
さらに、製造業の回復は日本の輸出にとってプラスに働きます。
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red : service (right hand)
アメリカではもう一つの指標が発表されました。それはミシガン大学の期待インフレーションです。ミシガン大学のデータは月に2回発表され、2週間前には速報値が、そして先週の金曜日には確定値が発表されました。
速報値が発表された際、期待インフレーションが急激に跳ね上がり、市場は大きな懸念を示しました。しかし、幸いなことに今回の確定値発表では、数字がわずかに低下しました。短期(1年)の期待インフレーションは速報値と同じでしたが、長期(5年)の期待インフレーションは0.1%ポイント低下しました。
ミシガン大学の期待インフレーション速報値と確定値の間に発表されたニューヨーク連銀の期待インフレーションでは、混在した数値が見られ、期待インフレーションの過度な上昇に対する懸念が低下したことと一致する結果となっています。
以下は支持政党別の期待インフレーションの推移です。大統領選挙前後で、支持政党別の期待インフレーションの変動が非常に劇的であることが分かります。共和党支持者は非常に低く、民主党支持者は高く見積もっています。そのため、これらの数字自体にはあまり意味がないと言えます。
これは政治的な傾向が強く反映されているためです。ただし、無党派層の場合、わずかに上昇していることが確認できます。これはトランプ政策の不確実性(特に関税)により、インフレが上昇する可能性への懸念が若干反映された結果だと考えられます。しかし、推移をご覧いただければ分かるように、期待インフレーションは着実に右肩下がりの傾向を示しています。物価再上昇を議論する水準には達していません。
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その間に、連邦準備制度理事会(FRB)が四半期に一度発表する期待インフレーションデータも公開されました。幸いなことに、追加の上昇は見られず、前四半期と同じ水準を維持しました。期待インフレーションは、インフレが本格化する直前だった2021年の第1四半期の水準にあります。
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[ 注目はディープシーク(DeepSeek) ]
このようにデータは無難でしたが、昨夜の市場は半導体を中心に大幅な下落を見せました。今週予定されているFOMCへの警戒感が影響した可能性もありますし、歴史的な高値更新後の利益確定売りが要因だった可能性もあります。しかし、何より市場が最も注目したのは中国のAI技術「DeepSeek」でした。比較にならないほど安価で、性能も優れているとされ、「AIの構図が変わるのではないか」という話題が浮上しました。
私が技術に詳しいわけではありませんが、個人的な見解を述べさせていただきます。
新しい技術が登場し、普及する過程でさまざまなアプローチが提案されるのはごく自然なことだと思います。それは性能の革新である場合もあれば、価格の革新である場合もあります。このような普及期における革新は、新技術の裾野を広げることに貢献し、最終的には技術の発展プロセスにおいて不可欠で歓迎すべきものだと考えます。
ただし、「それなら高価なGPUを大量に投入する必要はないのでは?」という見方については、現在のビッグテック企業がAIを通じて最終的に何を目指しているのかを考慮する必要があると思います。これまでに登場したAIサービスの特徴を見ると、パラメータがある程度定まると、後発組がそれを迅速に追随する傾向が見られます。
そのため、特定のサービスにおいて、先行者よりも後発者の方がコストや効率性の面で多くの利点を持つ場合があります。しかし、最終的にこれほどまでにAIに資金を投入して、最初に手に入れようとしている理由は、AGI(汎用人工知能)やASI(超人工知能)の実現を目指しているからです。
第二次世界大戦当時、どの国が先に核兵器の開発に成功するかを争ったように、現在はどの企業が先にAGIやASIの開発に成功するかを競っています。チャットボットやLLM(大規模言語モデル)は、その過程の一部に過ぎません。最終的な目標を誰が最初に達成するのかを巡る戦いであり、莫大な資金を投入して勝つにせよ、少ない資金で勝つにせよ、重要なのは最終的な勝者が誰になるかという点です。
そうした観点から、現在のビッグテック企業にとって、過剰投資に伴うリスクと過少投資に伴うリスクのどちらがより大きいのかを検討する必要があります。DeepSeekを深刻に受け止め、自らも効率を向上させる方法を最大限模索する姿勢を示すことはあり得ます。しかし、「投資を削減しよう」と大胆に言えるビッグテック企業がどれほど存在するのかは、個人的には疑問に思います。
効率性は短期的には役立つかもしれませんが、効率を追求しすぎて最終目標の達成が遅れてしまえば、それまでの努力がすべて無駄になる可能性もあるからです。