「うまかっちゃん」との再会
袋麺の代表格と言えば、うまかっちゃんだと思う。でも、最近気付いたが、これは福岡でしか通じないことのよう。いつだか忘れたが、深夜に袋麺選手権があっていた際に、うまかっちゃんも10位以内にランクインしていた。もっと上位じゃないのかと思ったら、ローカルフードということ。全国区でランクインしたのは、東京の人もお土産でもらう機会が多いからだそう。そういえば、東京のスーパーでは見かけないなとその時に気付いた。
しかし、自分で代表格と言っておきながら、思えば長らくうまかっちゃんを食べていなかった。とんこつの独特のにおいが苦手だったのだ。小学生のとき、休みの日に家で食べる昼ごはんと言えば決まって袋麺かチャーハンだったが、特にこの袋麺で多かったのがうまかっちゃんだった。母の実家に帰省してもうまかっちゃんだった。そういうわけで、かすかな記憶では最初は何の抵抗もなく食べていたのだが、ある日を境にサッポロ一番味噌ラーメンのほうが美味しく感じるようになった。ベタベタの豚臭さがダメになり、以降うまかっちゃんは丁重にお断りしてきた。とは言え、家の中でもそうであるし、店頭でも、袋麺の中でひときわ目立つのはうまかっちゃんだったと思う。だから、自分が食べなくても、袋麺の代表は「うまかっちゃん」だった。
一度遠ざけたものは触れる機会がなくなるが、結婚して、夫の実家からうまかっちゃんが送られてくるようになった。ああ、懐かしい、でも苦手だったなあと思いつつ、夫のためにつくった。一口食べるか?と尋ねられたため試してみたが、においはともかく、こんなに美味しかったっけ?と思うくらい、普通に食べられた。結局ただ飽きただけだったのだろう。そのうち、たまに九州物産展等で見つけると、地元より少々高くても買ってしまう。
母の実家で、祖父の横であついあついという顔をしながら一生懸命うまかっちゃんを食べていた幼い頃の自分の写真を思い出した。そういう私の何気ない日常は、この袋麺によって支えられていたのだ。そう思うと、少し泣ける。豚くさいのに、妙に切なくなってくる。
今日も夫は昼からの仕事のために、自分でうまかっちゃんを茹でていた。食べてる途中に話しかけた時、メガネが真っ白に曇っていた。あははと笑っていた矢先、スープをパジャマにこぼしたので少し小言を言ったところ、食べてる途中なのに申し訳なさそうにズボンを脱ぎ始めた。豚くささの漂う部屋の中で、下はパンツ一枚になった男の物悲しさよ。そうして夫が出て言ったあと、パジャマを手洗いした。
これも一つの日常だ。たかだか100円前後の袋麺ではあるが、これからも、そばに置いていたいと思った。