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海の音[恋文求ム]

下に弟妹がいたからだろうか。
私は小学校に上がるまで海に行ったことがなかった。

それは別だん悲しいことでもなんでもなかったけれど、私はとにかく海に憧れた。

それで、父親に海の話を何度もせがんで聞かせてもらっては、

海がいったいどのくらい広いのか

寄せては返す波とはどんなものか

水平線をみると地球が丸いとわかるなんていったいどういうことか

そんなことをぶらぶら考えるのが好きだった。

ある日私は友達にいいことを教えてもらった。

「貝殻を耳にあてると海の音が聴こえるんだよ。」

それで、理由は言わずに母親に頼んで家に飾ってあった大きな貝殻を棚から出してもらって、静かな子供部屋で検証してみた。

そうしたら「ザァーッ」という音が繰り返し本当に聴こえた。

大変嬉しかったので
急いでリビングまで戻って
友達から聞いた海の音の秘密を
母親に伝えた。

母のリアクションはあんまりたいしたものじゃなかったので若干つまらなかったけど、私はたいそう気に入ってそのあと何回か暇なときに1人で棚から貝殻を取り出して海の音を聴いた。

そういうこともあって今はもう
耳にあてることはないけれど、
私は大きな貝殻をいくつか大切に持っている。

本当はたぶん耳を流れる自分の血液の音が聴こえているんだろう。

でもこれは胎内にいたときにも聴いていた母親の音であるような気もする。

もっといえば、人間がうまれるずっと前の海の波の音でもある気がする。


私はちょっと大きな巻貝が好き。


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