見出し画像

(創作)ミルコと鹿せんべい

この話を私と次男のために
奈良にミルクスタンドを開店してくれた私の友人に捧げたいと思います。


「この夏私が飲んだアイスミルクだけは絶対鼻ミルクだった。」

秋の夜、デイブ・スペクターのジョークを聴きながら、私は相場の3倍の値段で購入した鹿せんべいを眺めていた。

何度聴いても相変わらずデイブ・スペクターの面白さは面白くないところだ。

奈良駅近くの「ゆったんのミルクスタンド」が姿を消してから久しい。

また会いたいな。ゆったん。

ふと、思い立ってベッドから抜け出て鹿せんべいを月にかざしてみる。

すると黒い鳥居が浮かび上がった。

「ほら!やっぱり!」
私はこのメッセージをどう解釈していいかはわからなかったが、幸せな気持ちになった。

次の日曜日、私は次男を連れて伊勢志摩に行くことにした。

奈良で黒い鳥居といえば大神神社である。ここを起点にどこに宮を置くか旅をした斎王は最終地に伊勢を選んでいる。

きっとゆったんは伊勢にたどり着くはずだ。

伊勢志摩方面のどこへいっていいかまるでわからないが私と次男のゆったん探し旅である。

この女、思い込みがひどい。

「ところでどこ行く?伊勢神宮?」
電車の中で私は次男に尋ねた。

「神社に行ってやってもいいけど、水族館に行きたい。大人の用事だけなんて俺は嫌だね。」

鳥羽水族館にいったら鳥羽水族館で終わるのが次男だ。

ま、いいか。次男ペースの旅を味わうのもあと数年だ。一緒に出かけてくれるだけでありがたい。

そして今、私達親子はラッコをずっと観てる。当初の目的をすっかり忘れて。

かわいい。ひたすらかわいい。

いくらエサ代が高くてもこれはかわいい🩷。

ほんとに高級食材を楽しげに食べるなぁ!かわいいからゆるす。

心の中でいちばん可愛いラッコを決めてその子をじっとみはじめた。

「あ!」次男が指を指した。
「あ!」私もみた。

それは一瞬のことだった。

1番可愛いラッコがポケットから出してみせたのは、餌を割る石ではなく、どうみても鹿せんべいだった。

心なしかこのラッコ、ふんわり優しげに笑った気がする。

「防水鹿せんべい」と「ラッコのほほえみ」の衝撃を受けてクラクラした私達親子は水族館を後にした。

「なんだかおなか空いたな。」
次男が言った。

どこかに出かけると、たえずおなかが空いたり、喉が渇く次男である。

しかし今回は私もおなかが空いた。ラッコの食事ほど豪華でなくても、私もなにか食べたい。

げ。
次男は海鮮が苦手だった。🦞

仕方なくこの海鮮の街のうどん屋で伊勢うどんを食べて
まだ足りないという次男のために、ポテトと唐揚げを注文する。

この子は本当にどこに行ってもポテトと唐揚げだ。

そして世の中にはそんな子どもが多いのだろう。ポテトと唐揚げは家族連れが行きそうなたいていの飲食店で注文できるのだ。

海鮮は食べられなかったけど、ゆったんの化身のようなラッコに会えて2人は満足して帰りの電車にのった。

食べたはずのないごはん粒が、車窓を眺めてぼんやりしている親子の洋服の上で夕日をあびてキラキラ輝いていた。


まわり道の得意なミルコが
ゆったんのミルクスタンドのあとに
オープンした
若い女性スタッフが口もとについた米粒をとってくれる定食屋に、
もう一度会いたいと願っている
ゆったんがいると気がつかずに
伊勢志摩までヒントとなるごはん粒をつけに行く旅の模様を描きました。

実は私も奈良に次男と店を開店しようかと思いましたが、次男から提供されたアイデアが「大仏の鼻くそ自販機」でしたので、断念しました。

ゆったんが気に入ってくれますように♪🦦💕😉。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?