アブラ蝉の一生
考えごとが止まらない。
止まらなすぎて
ついには
考えることについて
考えるようになってしまった
洋子は困ってしまって
別のことで脳を満たすことを
思いついた。
なんでも良い。
ふと目に留まった
子どもの理科の本を手に取る。
アブラゼミの育ち方…。
まるで食指がわかないが
読んでみることにした。
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夏の終わりに枯れた木の幹などに産みつけられた卵はそのまま冬を越し、次の年の初夏のころにふ化します。
(みたことないな。)
ふ化した後、幼虫は枯れた木の表面まで出てきて、最初のだっ皮をします。その後、木から降りて土の中にもぐり、根に注射針のような口を差し込んで木のしるを吸います。だっ皮をくり返して成長し、終令幼虫になるとからだが茶色くなります。このようにして約6年間、土の中でくらした後、7年目の夏の晴れた日の夕方ごろに地上に出て木に登り、背中がわれて最後の脱皮をして成虫になります。
(6年土の中…ながいな。土の中でも脱皮してたのか。考えたこともなかった。)
最後のだっ皮は最初頭から出てきます。脱皮直後の成虫は白い羽根や体をしていますが、やがて羽根が乾く頃には、羽根や体の色が茶色になります。成虫は木のしるを吸って生活しますが、ほとんどが2〜4週間ぐらいしか生きられません。
(ずっと木のしる吸ってるな。)
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本を閉じて洋子は考えた。
セミは成虫なのか?
アブラゼミはほとんど土の中で暮らしてる。
アブラゼミ本来の姿はむしろ幼虫なのではないか?
洋子はなんだか愉快な気持ちになり、椅子から立つとキッチンへ向かいお湯を沸かしはじめた。
私もまた考え続けていいのである。
時間はたっぷりある。
大好きな紅茶の汁でも飲もうと思った。