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真夜中の案内状

昼間どこからか赤ん坊の泣き声がきこえる。
まだうまれたばかりかな?
可愛い声だ。

アカリは編み物する手を少し休めて
声のする方向に意識を向けた。

あれ?
赤ちゃんがいそうな家ってあったからしら?
そして不思議なことだと呟きながらまた編み物に取りかかった。
今複雑な模様の始まりに差し掛かっているので集中力をとぎらせるわけにはいかないのだ。

アカリは2人の子を育て終えて今1人でこの家に暮らしている。夫は数年前行方をくらました。しばらくは泣きくらしたけれどもう慣れてしまった。もともと趣味だった編み物をしているときがアカリの心休まる時間だった。

その晩アカリは電気を消した寝室でおかしな夢をみた。
そして夢にうなされて目が覚めた。

おかしな夢はおかしかったということだけ覚えていて、何がどうおかしかったのかはまるでわからない。

ふと耳に飛び込んできたのは昼間の泣き声だった。

「あ!ネコだったのか!」

暗闇の中アカリは合点した。
同じ声でも昼聴くのと、夜聴くのではまるで意味が変わってくる。

興味深く思いながら、枕元に置いた携帯に手を伸ばした。
ネコの声が赤ちゃんネコの声なのかどうか知りたかったのだ。

そして携帯に手を触れると 
メッセージ受信の通知に気がついた。アカリは1日の終わりに自分に届いた全てのメッセージに目を通す。
大抵は広告だ。
たまに子ども達からの連絡があったりするので、毎日それを期待して確認してしまう。
子ども達も忙しいようで孫が産まれた頃は頻繁だった連絡もこの頃はあまり来ないようになってしまった。

夜に届くメッセージは珍しい。
何もないといいけど。

さっきまで気になっていたネコの泣き声のとこはすっかり忘れて、アカリは指をメッセージを確認するために滑らせた。

「なにこれ?」

アカリの手が止まった。

メッセージは集会への案内だった。
集会といってもただの集会ではない。
ネコの集会だ。
意味がわからない。
宛名はアカリ宛である。
差出人の名前をみるとネコ大将とあった。

迷惑メッセージにしても
ふざけている。

いつもはすぐに削除ボタンを押すアカリだったが、この日はどういうわけか文中に埋め込まれたURLを覗いてみたい気分だった。

「私ったらこんなバカなことを。」
そう思いながらもアカリは好奇心を抑えられない。

そんなアカリの衝動を後押しするように窓の外から声が聞こえる。
もちろんネコの泣き声だ。

ええい。もう。意味がわからん。
押してしまえ。

アカリは平和だけれど退屈な毎日に飽き飽きしていたのだ。

気がついたら押してしまっていた。

✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨

「おや?
私はいつの間にか寝てしまっていたの?」

まだ暗い時間にまた目が覚めたアカリは目をこすろうとして驚いた。

手がネコである。

これでは編み物ができない。

アカリは突然浮かんだその考えに苦笑した。
これは編み物どころの騒ぎではない。
急いで全身を確認すると、アカリは全身ネコだということを理解した。尻尾の先まで真っ白なネコだった。

どうしよう。



楽しい。


アカリはどうしようもなく嬉しくなって、少し開けてあった掃き出し窓からベランダへ飛び出した。

ピョンとジャンプして隣の家の屋根に登ると、そこには別のネコがいた。

「ニャーオ!」
昼間聞いた声だ!
大きな黒いネコだった。
満月のおかげなのかネコだからなのか黒くてもよく見える。
尻尾の先まで黒い。

これは…!

夫だ!!

黒いネコは待ちくたびれた風に
ちょっと背を伸ばしてから、
アカリのほうをみた。

ニャーオ!(行くぞ!)

アカリは合点し、今まで自分をずっと待っていてくれた夫の後を追った。

こうして夫の案内でネコの集会に出席し、アカリも仲間として無事受け入れられた。

それから2匹は自由を楽しみながら
夜の世界を毎晩飛び回った。
よかったねアカリ。

お し ま い


ネコミミ村祭りを勝手に応援しまーす🐈💕みて歩くだけでも楽しすぎです❣️



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