僕の好きな子は、いつも上座に座る
僕の好きな子は、いつも上座に座る。
《春》
僕はもうすぐ満開になるだろう桜を遠巻きに見ながら、青いベンチに座っていた。
隣には、好きな子がクラブサンドを両手で持ち、むしゃむしゃ、食べている。
「おいしい?」
「おいひい」
なんだろう。
「おいひい」って熱いものを食べた時にしか聞けないものだと思っていた。
僕の感覚に奥行きと幅を与えてくれる素敵な子。
《夏》
蝉の声が脳に響く。
ラジオ体操に来てみた。
僕の好きな子は、ダイナミックな動きで体操をしている。
「豪快だね」
「へへっ」
舌を出し得意げに腕を大きく動かす僕の好きな子。
僕も顔色ひとつ変えず腕を大きく動かす。
僕の好きな子も負けじと大きく動かす。
僕もさらに。
僕の好きな子もさらに。
僕、よりさらに。
僕の好きな子、よりもっとさらに。
僕たちの周りにつむじ風が起こった。
《秋》
フードコートが好きだ。
なんにも気を使わなくて良い気がする。
ブーブーブーブー。
お料理できましたを知らせるアレが作動した。
ブーブーブーブー。
僕の好きな子のお料理できましたを知らせるアレも作動した。
「取ってきてあげるっ」
「いいよ、座ってな」
背後に感じる視線に振り返ることなく、
僕は両手で、お料理を配膳する。
「はい、どうぞ」
「いただきますっ」
子供のようにご飯をむしゃむしゃ食べる僕の好きな子の事を、僕はこの先も見る事ができるのだろうか。
《冬》
近所で、ちらほら見る雪だるまが、少し溶けて傾いている。
お湯を注ぐ。
割り箸を割る。
暗い部屋に、隙間風。
1週間剃ってない髭を触りながら3分待つ。
僕はバカだ。
涙が溢れてくる。
僕の好きな子は、
僕の好きな子は、
「ただいまーっ!」
「おかえりー」
「何泣いてるの?」
「なんか犬と昔、離ればなれになっちゃった飼い主がいて、」
「へぇー、あ!隣の高橋さんがさー、」
僕の好きな子は、いつも上座に座る。