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アメリカンな山形レイディは今日もきっと湯船に浸かる

朝風呂に入って髪を乾かそうとしたら、おばあちゃんに声をかけられた。

お風呂に入る前の受付あたりで、店員さんと話していたばあちゃんだ。
ばあちゃんが何かを聞いて、店員さんが「んだ~」と相槌をうつのを横目に見ながら、山形の人って本当に”んだ”って言うんだなと考えながらお風呂に浸かった後のこと。山形のレイディに話しかけられた。
山形訛りのばあちゃんの話に、1分くらい過ぎたあたりから耳が慣れてくる。

昨日から泊まってたのかと聞かれて、はいと答えると、夜の九時頃に宿に帰ってきた人を見たけど、その人かと聞かれて、いや違います、と答えた。
どうやら誰か別の人と勘違いされているみたいだな、とドライヤーに手を伸ばそうとしたら、どこから来たのか、旅行なのか、いくつなのか、とどんどん質問がふってきた。質問に答えていたら、私がお孫さんと年齢が同じくらいらしく、今度は三人のお孫さんの話になった。

朝八時待ち合わせ。時計を見ると十五分前。

ドライヤーの音におばあちゃんの声がかき消されそうだったので、遠慮して乾かさずに話していたのだけど、さすがに焦り始めてドライヤーのスイッチをオンにした。
ばあちゃんは話し続ける。
東京の方にいる孫が遊びにくるときは、ここに泊まるとか。
すらっと背が高いお孫さんは、シャイであんまり話さないとか。
私が話すと、「んだんだんだんだ」と高速んだんだをかましてくる。

真夏の太陽がじりじりと肌を焼くのを感じるような夏。真っ白な積乱雲が空高くのぼる、そんな夏。東京から飛行機で来たお孫さんに、よく来たと顔をほころばせながら、元気にしてたのか、ご飯は食べたのかと話し続けるばあちゃんと、静かに、少し恥ずかしそうに相槌をうつお孫さん。そんな感じなのかな、と意識を勝手に飛ばしていた。今は雪化粧をしている鳥海山は、その頃には緑に溢れ、生が満ちているんだ。

月に二回はこの温泉に泊まるんだと話すばあちゃんは肌ツヤがいい。
「お肌きれいですね」
と言ったら、そうだろ、よく言われるんだ、とばあちゃんは言った。
温泉にもよく入るし、運動のために通ってるプールも温泉水だから、肌にいいんだと話し続ける。
褒めると、そんなことないですよ、と謙遜しがちな人が多いので、
そうだろ、と全肯定してくるばあちゃんを見て、これがこの人をこんなに元気にしてるのかなと思った。

待ち合わせ五分前。もう時間通りの集合は無理だな、でもこのばあちゃんと話せた時間は豊かだったな、そんなことを思いながら、さすがに話を切らないと…と考えていたら、八時から朝食だからと言ってばあちゃんが会話を終わらせたのが、なんだか可笑しかった。

会話の最後に「また会おうね」とばあちゃんが言った。

この場所に、もう1度来るかもよくわからないけど、なんだかまた会える気がした。ばあちゃんの名前も知らないけど、またここに来て、温泉に入ったらこのばあちゃんに会えると知っている私がいた。

朝ごはんへ向かうばあちゃんの撤収の早いこと。あっという間に去っていた。取り残された私は急いで荷物を詰めて外へ出る。
ホテルのエレベーターでまたばあちゃんに会って、あ、どうも、と声をかける。私は二階で、と降りたばあちゃんが、閉まりかけの扉に向かって何か言った。慌てて「開」のボタンを押すと、「いっつもね、ここ(大浴場のある階)で降りて、化粧水塗るんだ」と言った。
2度目に閉じるエレベーターの扉の間から、にかっと笑ったばあちゃんの顔が見えた。

温泉で別れるとき、ばあちゃんは「また会おうね」と言った。
See you aroundか。とエレベーターに残された私は考える。
褒めたら、そうだろと全肯定をして、別れるときにはまた会おうと気さくに話すばあちゃんを見て、アメリカの友人を思い出した。

アメリカンな山形レイディは今日もきっと湯船に浸かる。

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