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土木:高速道路:トンネル掘削の現場を特別に見学させていただきました

新小仏トンネル(仮称)は上り線・小仏トンネルの渋滞解消の切り札として建設が進められているもので、現在のトンネルの北側に並行して長さ2,304mのトンネルを新しく掘っています。2026年(令和8年)完成予定で工事が進められています。
今回、その新小仏トンネル(仮称)の工事現場を特別に見学させていただく機会がありましたのでご紹介します。

中央道の小仏トンネルと言えば渋滞することで有名で、特に行楽客が一斉に帰宅する休日夕方の上り線(東京方面)は小仏トンネルを先頭に大渋滞が頻発しています。2019年には1年間に120回、最長で40kmの渋滞が発生しました。
これは、全体に登り坂になっている(トンネル手前には4.5%や3.2%の勾配があり、小仏トンネル内も2.3%の登り坂が続く)という線形条件と、トンネルの心理的圧迫感でついスピードを落としてしまいがちなのが重なって、ここに一斉に東京方面へ帰ろうとする交通集中が起きることで生じています。小仏トンネル手前には1.3km程の付加車線(登攀車線)があり一部は3車線になっていますが、それでも渋滞解消にはつながっていないのが現状です。
抜本的な渋滞解消には全体的に3車線に増やすしかないのですが、とは言えトンネルの部分はそう簡単には拡幅できず、もう1本新しくトンネルを掘るしかありません。
国土交通省を中心に2013年(平成25年)から「中央道渋滞ボトルネック検討ワーキンググループ」で様々な解決策を検討してきた結果、2015年に、小仏トンネルから圏央道との分岐点である八王子JCTまでの約5kmを3車線化することが決まり、事業化が決定されました。新小仏トンネル(仮称)はそのメインの工事区間です。

2018年5月撮影。この横断幕は現在は掲出されていません。

見学してきましたその1:作業ヤードと横坑

早速、坑内に入ったところからご案内します。
その前に、作業服に着替えたり、ご案内していただく工事事務所長さんにご挨拶をしたり、事務所で説明を受けたりいろいろありましたが、それらは一旦飛ばさせていただいて。

坑内に入っていくと高速道路でおなじみの緑の案内標識が出迎えてくれました。プロジェクターで地面に投影するという手法を使って、素敵な演出ですね。見学者にとってもワクワク感が高まりますが、坑内で作業をされている方にとってもわかりやすいのではないでしょうか。
実は新小仏トンネルは「入口」からではなく、途中に横坑を掘ってそこから両側に掘り進めています。ここはその分岐点です。

普通トンネルは「入口」から掘り進めます。「入口」が両方にあるから両方から掘り進めて中央部で貫通させるというのも、よくトンネル工事の記録映像で見るシーンです。
では、どうして新小仏トンネル(仮称)では途中に横坑を掘るというやり方をしているかというと、「入口」付近に作業ヤードが確保するのが難しかったからです。作業ヤードは、作業員の事務所があったり、建設機械や資材を準備・備蓄したり、「ずり(工事で排出された土砂)」を一時的に仮置きしたり、場合によっては排水処理プラントなどの設備を置いたりと…、とにかく作業ヤードがないことにはトンネル工事はできません。そして、そうしたもろもろを考えるとそれなりの広さが必要になります。
新小仏トンネル(仮称)の建設現場は山の中で、しかも並行して中央自動車道やJRの線路も走っています。今の作業ヤードも、既設の小仏トンネルを建設した時の作業ヤードの土地が残っていたのを活用して、反対側の下り線側にやっと確保したものです。もう、作業ヤードがここにしか確保できないから、ここからなんとか掘り始めるしかないという感じです。
この苦労をわかってもらいたくて、図を描いてみました。

数字の3のようなくねくねした道が搬路です。
一般道から作業ヤードに通じる道も細いため、中央道の下り線に工事車両専用の出入り口を設けてダンプカーなどはそこから出入りしています(高速道路の大規模改修や延伸工事では、作業車両の往来もできるだけ高速道路内で完結させるような工夫も増えています)。そのためか「下り線側の工事と間違えられることもあるんですよ」と工事事務所長さんも苦笑いされていました。
そうした苦労があっての、この横坑なのです。

見学してきましたその2:切羽とNATM工法

横坑から入って、いよいよ新小仏トンネル(仮称)の本坑です。断面積は標準で74平方mあり、横坑よりも断然広いです。完成するとここが高速道路の車線となるのですから横坑よりも立派なのは当然です。
ちなみに新小仏トンネル(仮称)は供用時は1車線ですが、将来的に例えば既設の小仏トンネルを長期間通行止めにして大規模な補修作業(リニューアル工事)を行なう必要性が出てくることを想定して、2車線確保できる大きさで作っているそうです。
ちなみに、既設の小仏トンネルの断面積が84~104平方mですので、それよりは一回り小さくなる感じです。

本坑を右手に向かいます。八王子JCT方面(東京方面)に向かうことになります。

これまで何度かトンネル工事の現場見学は経験ありますが、これまで見学してきたのは首都高・中央環状線山手トンネルや外環(外郭環状道路)のトンネルなど東京周辺の平野部(沖積地)ばかりで、そうなると工法もシールド工法に限られてました。見に行ける一番最前線はシールドマシンの「お尻」で、実際に掘削している切羽と呼ばれる部分は密閉された機械の裏側。それはそれで、粉塵もほとんどなく、一般人が見学しやすい現場ではあったのですが。
それに対して今回の新小仏トンネル(仮称)は山を穿つ山岳トンネルで、工法も発破をかけて山を切り崩していく掘削工法です。より正確には爆破掘削方式・補助ベンチ付き全断面掘削工法というのですが、この工法の一番の目玉は掘っている切羽を見ることができることです。今切り崩されたばかりの岩盤が見えているのは感激しました。

今はちょうど東京と神奈川の都県境の真下付近にまで到達しているということです。地下なので周囲は見えないですが、ボーダーを越えるというはなぜかワクワクします。
そして都県境ということは、このあたりが地表からの深さ(土被り)が一番大きくなっているはずです。事務所で見せていただいた解説動画では約300mと言っていたので、今、この坑道の天井には300m分の土圧がかかっていてその土圧を円形の構造で受け流していることになります。想像できるような…できないような…

写真をよく見ると、トンネルの断面が異なっていますね(写真手前が広くて、奥の切羽に近い部分は狭くなっている)。今原稿を書いていて気が付きました。手前側の広くなっているところは、おそらく非常駐車帯を設けるためのスペースでしょう。
標準的な断面積は74平方mですが、この規模の断面積だと、今のトンネル掘削技術では全面一気に掘削してしまうようです。技術用語で言うと補助ベンチ付き全断面掘削工法になります。これも60年前に建設された既設の小仏トンネルと比較してみますと、当時は中央底設導坑先進上部半断面掘削方式で、つまり中央下部に小さな穴を先に掘ってそこから上部に広げていくという段階を経た掘り方だったようです。技術の進歩ですね。
新小仏トンネル(仮称)では昼夜連続で、1日4回の発破、1回の発破につき1mずつ進捗していくということで、1日に4mずつ掘り進めているそうです。

地質の話です。
この付近は白亜紀後期の小仏層群小伏層と呼ばれる地層で、神奈川県内でも最も古い地層になるそうです。白亜紀後期は今から1億50万~6600万年前。恐竜が繁栄していて、哺乳類は小型のものが出現していた時期になります。日本海はまだなく、やがて日本列島として分離するだろう部分が大陸の沿海部にちょこっと存在していたというようなジオイメージです。そうした陸部だった地盤からは日本でも白亜紀の恐竜の化石がいくつも発見されていますが、新小仏トンネル(仮称)で掘っているのは当時太平洋の海の底に堆積していた地層なので、そうした大きな生物の化石は出ないようです。海の底の地層が、プレートの活動によってやがて日本列島にくっついて、持ち上げられて、標高600mの山地となりました。日本列島を造っている地質構造としては、付加体と呼ばれる部位になります。
海の底で堆積した岩石で、細かな泥が凝固した泥岩やもう少し粒子が大きくなる砂岩で構成されています。泥岩は、薄く剝離する性質の頁岩になっています。
古い時代の地層なので全体的に堅硬緻密と評される安定した岩盤のようです。地下水の湧水も少ないとのこと。

掘削したての岩石を見るのが好きで、事務所に置いてあるサンプルも見させていただきました。

事務所に展示してあった岩石サンプル。こちらはフレッシュなもの

頁岩は薄く剝離するのが特徴なので、ここに上から大きな土圧がかかると弾け飛んでしまう危険性があります。切羽の写真をもう一度よく見てみると、モルタルを吹き付けて安定させている様子も見えます。

切羽の手前には、なにやらいろいろなことができそうなマシーンが控えています。これが「手」に持っているアーチ型の鋼材は、鋼製支保工と呼ばれるものです。掘った部分にこのアーチ型の鋼製支保工を入れて、崩れてこないようにします。そしてコンクリートを打設して、地山と一体化するようにロックボルトを打ち込みます。だから、構造的にはNATM工法(新オーストリアトンネル工法)ですね。山岳トンネルではこれが主流になっています。
写真でマシーンの背後の天井に青い点々のようになっているところが、ロックボルトを打ち込んだ部分です。

見学してきましたその3:はたらく車

工事現場と言えば、はたらく車を観察するのも楽しみですね。
トンネル工事という特殊な工事現場ですので、普段街中で見かける重機よりも一回り大きな車両を見ることができました。

見学時に切羽に取り付いていたのは、この2台。左は削岩機を装備していて岩盤を砕くようです。右のはパワーショベルかな。
いずれもAIによる接触防止機能付きで、もし周囲に人がいた場合自動検知して、事故防止につなげるそうです。技術進歩はこういうところにも生かされているのですね。

切羽から少し離れた所で待機しているホイールローダーです。発破をかけたり削岩機が砕いた岩屑をこれですくって、ダンプカーに載せて排出します。掘削したての岩屑は鋭利な断面があったりするので、タイヤには保護用のネットが巻いてあります。

大型ダンプカーが3台並んでいました。発破直後とかはこれらのダンプカーがこの坑道を行き来するのでしょうが、今は休憩していました。

ホイールローダーが作業をしていました。
左にあるのはクラッシャー(粉砕機)とホッパー(積み込み機)で、岩屑を細かくしてベルトコンベアに流し込んでいく機械です。切羽から持ってきた岩屑をホイールローダーが投入していきます。

坑道内を動き回る重機のヘッドライトがカッコいい!
地底でうごめく怪獣のようです。

見学してきましたその4:密閉式吊下げ型ベルトコンベヤ

これ、おそらく、建設会社の人が見学に来た時は一番食いつきが良いアイテムではないかと思いました(トンネルの掘削自体の方は地山は安定しているし、ある意味普通の山岳トンネルだし)。
通常のベルトコンベヤは平面的だけど、密閉式吊下げ型ベルトコンベヤはこのように袋状にして土砂を運搬するようになっています。このことで、より急勾配、急カーブの搬路にも対応できるし、袋状にするから粉塵が舞わないとかというメリットもあるだろう。従来型と比べて場所も取らないように見えます。
素人目にも「これは便利!」と思えます。
「でも、お高いんでしょう?」
ちょっと聞いてみましたが、ごにょごにょ言葉を濁されまして、やはり便利なものはそれなりのお値段がするようです。

こちらは、袋状に折りたたんでいくところ。
ホイールローダーが投入した「ずり」はクラッシャーで細かく粉砕されて、袋状にくるまれて外に搬出されていきます。流れ作業で袋状に閉じられていくの、テレビで見たポテトチップスの袋詰めのラインみたいな感じでした。

見学してきましたその5:連絡坑工事

非常時用の連絡坑が5本設置されることになっていて、新小仏トンネル(仮称)の本坑には連絡坑の掘削用の場所が空けてあります。

こちらは既設の小仏トンネル(上り線)の中です。天井は排ガスの煤で黒くなっていますが、一部だけコンクリートの地の色が見えて白くなっている所があります。この部分は既設のトンネルに補強のためのロックボルトを打ち込んだ場所です。
既設トンネルの補強工事は、2023年11月27日(月)から12月8日(金)までの平日夜間20時~翌日の5時まで中央道・相模湖IC~八王子JCT間の上り線を通行止めにして行なわれました。まだ3か月ぐらいしか経っていないので、工事個所もはっきりとわかります。

ということで、個人的には(土木マニア目線では)切羽を直接見ることができたのが一番の収穫でしたが、この工事現場的には作業ヤード確保の苦労と密閉式の吊下げ型ベルトコンベヤの導入がポイントでしょう。
新小仏トンネル(仮称)の建設は八王子JCTまでの区間までの3車線化プロジェクトの一環で、他にも新底沢橋の架橋、小仏トンネルの八王子側での切土や中央分離帯を使っての拡幅など、地味だけど何気に手間のかかる工事がたくさんあります。また、下り線の方でも、小仏トンネルからの下り坂を勢いよく下った車がその先の登り坂で渋滞するというボトルネックがあり、そちらの方もなんとか確保した狭い作業空間で懸命に工事が行なわれていました。
今回はそうした所も一通り見学させていただいたのですが、まずは新小仏トンネル(仮称)についての見学報告になります。
その他の工区のことも、機会があればまた書きたいと思います。


今回の工事現場見学にあたりご協力いただきました関係者の皆様に感謝申し上げます。


別の日に、小仏トンネル東側の付加車線建設工事も見に行ってきました。


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