信仰:民俗:滋賀県野洲市吉川(旧中主町)、矢放神社の塗り山
矢放神社が鎮座している旧中主町吉川は、今は廃川になっているけれども野洲川の北流沿いの自然堤防上に成立した集落だ。野洲川は天井川で、北流と南流に分かれていた流路が昭和54年(1979年)に人為的に開削した野洲川放水路にまとめられるまでは、頻繁に洪水を繰り返してきた。吉川の集落も何度も水害を蒙ってきたし、石積みの護岸を築いて水害を防ごうとしてきた歴史を持つ場所だ。
矢放神社の境内の溜池の中に、泥を盛った山が築かれている。この泥山は「塗り山」と呼ばれている。祭事は毎年3月に行なわれ、氏子が溜池の底の泥をすくって山に塗り付けるのである。春の農耕を前に溝を浚って畦を作る作業を模しているとされるが、野洲川沿いの低地にあって、土を盛って山を築くという水害避けの願いが込められているようにも思える。
泥を塗りたくった様子がわかる。実際の神事の場面を見てみたい。
現地の解説板によると、本殿・拝殿と塗り山が一直線に配置されていて、塗り山を神様が降臨する神籬とみなしている。また「矢を放つ」ことを開田と解釈していて、矢放神社の社名そのものを農耕神事に結び付けようとしている。ここまでくるとちょっと強引な気がする。
「塗り」山が畔「塗り」を連想させるので、いずれにしても畔塗りを形式化した神事には違いなさそうではあるが。
1960年代撮影の航空写真。中央下に矢放神社の社叢が写っている。
2022.02.12
野洲市コミュニティバス・矢放神社前バス停すぐ