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黒デニーロと白デニーロ~「レイジング・ブル」と「マイ・インターン」

現代ならCGだとか特殊メイクだとか、はては”加工”などもあるので、リアル以上のリアリティを作り出すことはそれほど難しくはないのかもしれない。
かつてはそれを生み出すのに、多大なる労苦を惜しまなかった俳優もいたのだ。今回はその真骨頂の作品、1980年公開「レイジング・ブル」、主演はロバート・デ・ニーロである。

実在のプロボクサーの半生を描いた作品ということで、前半はボクサーを演じるデ・ニーロ。その鍛え上げられた肉体は、まさにプロボクサー然としている。これだけでも大したものだが、その引退後のでっぷりと肥え太った姿も”自前”で作りあげたものなのだ。これこそ「デ・ニーロ・アプローチ」と言うものらしい。

さて、中身の方である。
ほぼ全編白黒で描かれているのだが、その中で唯一カラーの場面が、ホームビデオで記録された数少ない家族団らんのシーン。なんだか夢と現とが入り混じってくるみたいである。むしろこう見るとカラーの場面の方がはかなげな印象すら覚える。
ストーリーもなかなか見ていて辛くなる。主人公のラモッタという男、どうしようもないクズなのだ。ボクサーとしては一流なのだが、自分勝手で女に手を上げたり、やりたい放題。ボクシングが強くなればなるほど猜疑心も強まり、周りの人は遠ざかっていく。強さが欲しいのか、人との関わりがほしいのか、どちらなのか。そうやって彼は一路破滅に向かっていくのだ。

このような話だからこの映画のデ・ニーロは救いがない。そして毒気に満ちている。見ている自分も毒に侵されてしまったので、解毒せねば!
そう慌てて続けて見てしまったのがこちら。2015年公開の「マイ・インターン」

この好々爺ぶりたるや!35年経っているとはいえ同じ人物とは思えない。
ラモッタにはなるまいとは思っても、このベンは誰もが憧れるシニアではないだろうか。さすがデ・ニーロの振れ幅の大きさよ、と唸らずにおれない2作品であった。この「マイ・インターン」はまた機会があれば。

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