「違うこと」をしないこと #4
そのことを早く書けよって思ってます?
吉本ばななさん著
『「違うこと」をしないこと』
を読んだんです。
でしょうね。でしょうよ。
それで思ったことを書きたいんですけど、思ったことがあまりにも遡ったところから頷けてしまったので遡らずを得ず、遡ってる次第です。
私はついに東京に出た。
とは言っても関東在住なので通学組である。
思えばこのころが一番キラキラしていたのかもしれないなと思う。
服や髪もいろんなことを試してみたし、メイクも覚えたし、初めて恋人ができたりした。
写真学校の人たちはみんなそこそこ大人で干渉してこないし、写真て撮るのも焼くのも基本個人作業だったりするからひとりでいるのがふつうだし、イケてる女子のグループに入りそびれたら終わり、みたいな集団生活闇ルールみたいなのも存在しなかった。
なんなら毎日学校行かなくても大丈夫だし、それでもちゃんとお互いを認識し合っている、そんな世界だった。
とても楽だった。
外の世界って素晴らしい、自由って最高だ、私はキラキラとそう思っていた。
卒業後知ることになるのだが、これは単に学生であるという付加価値が私を守り輝かせていただけの話なのだった。
そしてその後、
本当の自由とはどういうものか、知ることとなる。
向かう所敵なしの学生の鎧を脱ぎ捨て、社会人の鎧も「いや、結構です」と断った私はもはや何者でもなくなった。
自分でもなんだか浮遊しているのがわかるくらいだった。
上も下も前も後ろも手前も奥もない。
だって、浮いちゃってるから。
どこに向かって進めばいいのかわからない。
大丈夫だ、東京に住めばうまくいくはずだ。
わずかな資金を手に一人暮らしを始めた私は、生きるために必死にバイトに励み、その場所で自分の存在を確認するしかなかった。
卒業とともに友達もさよならするタイプの私に、わざわざ会う友人はほぼいないに等しかった。
一人の部屋に帰り、一人の部屋で眠った。
センスもお金もない幼い私に、素敵な部屋はつくれなかった。
100円の食器でごはんを食べていた。
次第に私は過食気味になっていき、恋人は学生というキラキラ味のふりかけがなくなった私に冷めたようだった。
何者でもない上に、手ぶらだった。
自由は、恐ろしかった。
このころ私は夫と出会う。
正確にはすでに出会ってはいたのだが、孤独気味な私たちはこのころ改めて出会い、なんとなく共鳴したのだと思う。
夫と暮らすようになり、私たちは孤独の穴を埋めた。
猫も飼った。
でもやはり私は、何者でもなかったし、相変わらず手ぶらだった。
東京という街はシビアな戦場だ。
皆、才能がある人が大好きで、ない人は見向きもされない。
付加価値がどれだけあるかで人を判断する(劣等感です、すみません)。
英語喋れます。
ケーキ焼けます。
バレエできます。
会社やってます。
DJやってます。
美容師やってます。
バンドやってます、モデルです、芸能界で、、、
まあ、結局それで判断するのが早いし、無駄がないのだ。
掃いて捨てるほど人が溢れている場所で、だれだって必死だし、知らない他人のパーソナリティーなんてどうだっていい。
隠された魅力なんて、だれも探しちゃくれない。
発掘したところで一体何のメリットがあるというのだ。
こんな世界だから、私も何か鎧をつけないと。
丸腰じゃ戦えないぞ。
できることって何だ。
やりたいことって何だ。
足りないあたまで考えたとて、結局おしゃれなカフェの店員になることしか思いつかないのだった。
つづく。