機が熟すそのとき
私は何もかも失ってしまった。
仕事もたまに会う仲間も社会も。
元気な母も。
そんな夏だった。
ありとあらゆるものがなくなり、肩の荷が降りた気もした。
もともとプライベートな時間まで制限を課される仕事に疑問を抱かずにはいられなかったし、もともと人と会うにはとてもエネルギーが要るタイプだし、外の世界と関わることは外用の自分でいることが必要だし。
ひとつひとつが気がついてみたら重たかったのだと思う。
自由奔放で明るさだけが取り柄のような母はうつを患った。
毎日生きることと戦っているのだと思う。
1年の殆どを家で過ごした。
殆ど家族としか話さず、殆ど家で食事をした。
多くの人がそんな1年だったとは思うのだが、特別自分はそうだったと思う。
身体的にもそうなのだがこころが家に縛り付けられているような感覚だった。
今もそう、外にいてもあの頃のような自由はもう存在しない。
私はとにかく自分と向き合うこととなった。
過ぎたことも、今起きていることも、奥底に眠っていた自分の感情にも折り合いをつけなくてはいけなかった。