続き
自分で言うのもなんだが高校一年生まではそれなりに恵まれ、順調に人生を進めていたと思う。
大した挫折も無く、お稽古事でも部活でも勉強でも大人たちからは褒められ、自分が認められることが当たり前。分からないやつは見る目がない。
別に友達なんかは居なかったし、放課後や土日に遊びに行くことも無く。塾に行けばテストも模試も結果が出る。少し個人で競技場練習をすれば協会の先生に指導を頂き、次の試合では当然のように入賞。
少し寂しさを感じても見て見ぬふりが出来る程度。何も不足は無い。
そう信じていたし、このまま全てが上手くいくと思っていた。
中学校3年生の春、県大会で3位になった大会だった。
私の通っていた中学校は毎月の全校朝会で表彰の時間があり、大会で賞状を貰った生徒が校長から賞状を受け取るというものがあり、そのために事前に顧問や教員に賞状を預けなければならなかった。
春休み中の大会だったので、次の表彰は始業式。
私はいつもギリギリで教室に駆け込むタイプだったので当日の朝渡すのでは間に合わない。そう分かっていたので、始業式3日前の部活で顧問に賞状とメダルを預けた。
始業式の日、私は顧問に声をかけられ
「お前、この前の大会の賞状は?」
「え、この前の部活の時預けましたよね。」
「知らないよ?」
そんなはずはない。なんなら廊下には他の教師もいた。その時の会話、その後の他の教師との会話も答えられるほど鮮明に覚えている。
「俺は貰ってないよ。だって机の上にないもん」
ふざけるな。今すぐお前の机やら荷物やらひっくり返して探してやろうか?本気でそう思った。
入賞することに特別な感情はないけれど、一つ一つが私のプライドを形成する大切なパーツなのだ。一つでも欠ければ私は不完全では無い。
結局賞状は帰って来なかった。
賞状が無いことももちろんショックなのだが、仮にも教師。子供の手本となり導くはずの存在が他人の物を失くした時、それを認めず、開き直っているその様に何よりも失望した。
元々教師という存在が好きではなかったが、この事件がなければここまで侮蔑の対象になることは無かったと思う。
自分に媚を売り、可愛らしい素直な生徒の肩を持ち、熱心に指導をし、成績も上げていた。私のような常にお高くとまり、真面目に授業を受けないで点数だけかっさらう生徒はそれはそれは目障りだっただろう。
それでいて私の記録を自分の手柄かのように外へ自慢しまくるのだから胸くそ悪い。
市民選手権、私はもちろん走高跳で出場し、優勝、そして県大会への提出記録を取るつもりでいた。(修学旅行が県央大会と被っていたので直前の市民選手権の記録を提出するため)
市民戦2週間前、廊下ですれ違った顧問を私はガン無視していたのだが、急に「あ、そういえば市民選混成四種で登録したから他も練習しとけよ」と言われた。「は??え、嫌です。」考える前に口から落ちた言葉。
混成競技は中学生だと、砲丸投げ、100mハードル(男子は110m)、200m(男子400m)、走高跳の4種目を1日、もしくは2日でこなし、それぞれの競技の合計点数で順位が決まる競技で、高跳びしかやってこなかった私には当然結果が期待出来ない競技である。
なんの嫌がらせだ。心の底から思った。
「四種でエントリーして、高跳びとしての記録を提出して、それから四種も県大会通れば2回全国へのチャンスができるんだぜ?ほら、去年全中行ったあいつだってそれで全国行っただろ」
なんて得意げに。ふざけるな。既にあちこちを痛め満身創痍、高跳びだけで体力は限界だ。それに加え私は中度の喘息があり、医師から走るトレーニングは控えるように言われていた。
走れないことも無いのだが好きではないし早い訳でも無い。勝ちたくはあるが死の淵まで見に行きたいわけじゃない。なんなのだこいつは。いっそのこと校長に言いつけて陸上部潰してやろうか、とまで思った。
当日砲丸投げ、100mHをやってから高跳び。既にバネなど残っていない。当然ベストも出せず、不本意なまま高跳が終わった。県大会に通りはするだろうがトップ通過は無理だろう。200mは発作が起こりかけて涙が出る中、怒りとプライドで走りきったがタイムは中の下。
高跳でそれなりの点数を稼いだおかげで最終結果は4位だったがメダルも逃し、自己ベストも逃し、しまいには1ヶ月の安静を言い渡される故障の悪化。
私がこんなに悔しく辛い思いをしたのにも関わらず顧問は自ら成人の部100mに出場し2位に入り、得意満面。今すぐ顔面をスパイクで蹴り倒してぐちゃぐちゃにしてやろうかと思うくらい私は傷つき怒り悲しかった。
修学旅行から帰った私は顧問から走高跳、混成四種共に県大会に通ったことを知らされた。嬉しくもなんともない。
四種なんて出るつもりは無い。あんな運動馬鹿な他校の先輩なんか知るか。どうだっていい。そいつがそんなことしていなければ私はメダルも優勝もトップ通過も賞賛も手に入れていたはずだ。会話すらした事の無い先輩にまで怒りが向く。
さらにムカつくことに、私がこれだけ部の功績に貢献しているにも関わらず高跳の用具は一切新調されず、短距離の筋トレ用具、スターティングブロック等はどんどん部費で購入される。
自分の為にならないのに部費を払うのって意味無いじゃん。
高跳で共に競技をしていた友達と何度話したことか。この顧問はドがつく程のクズであること、後後表に出ることをずっと願って止まなかった。
県大会もまあまあな結果で終わり、私の中学時代の花は枯れた。