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Mahidol University Faculty of Science┃建物の機能と形に呼応した跳ね上がり壁

Mahidol University Faculty of science /Amon Sriwongse , 1968

建物の機能と形に呼応した跳ね上がり壁

外観

1. 建物概要

BTSスクンビットラインの戦勝記念塔(アヌサーワリーチャイ)駅から、西へ車で約5分行ったマヒドン大学キャンパス内にある理学部棟になります。
マヒドン大学は元々医学部単科大学としてマヒドン王が設立した大学で、かなり偏差値が高いらしい。

余談ですが、タイの国立大学の名前は、設立した王様の名前がつけられることが多いです。
チュラロンコーン大学はチュラロンコーン王、キングモンクット工科大学はモンクット王の時代に作られました。
なかなか不思議なシステムです。

設計者はアモン・スリウォン。他の大学で教授もされていたそうです。構造は分かりませんでした。

2. 構造概要

すり鉢形状により構造デザインを全面に押し出しているのがわかります。
6枚のRC壁が外周に向かって跳ね上がっています。
レクチャーホールがこの中に3室あるのですが、
中央に低い教壇があり、外周方向に座り、中央を向く並びになっています。
外周へ行くにつれて席のレベルが高くなっているので、
跳ね上がったRC壁はそのレベルに呼応しています。

断面イメージ
レクチャーホールの席の並び

建物中央で6枚の壁が集合していますが、
そこでまた逆方向に跳ね上がっており、
ピロティのような半地下空間を作り出しています。
つまり、平面的に円の中央と外周、両方でRC壁は跳ね上がり、軒を作っていることになります。

外周に向かって跳ね上がる壁
中央の半地下空間に向かって跳ね上がる壁

さらに、中央は屋根を支えるために別のRC躯体が交差していて、回廊のような空間となっています。
中央の躯体はヴォールト形状です。
これらを全て構造体で作り上げているのが素晴らしいですね。

RC壁と交差するヴォールト躯体(半地下レベル)
ヴォールト躯体(建物レベル)

初見では混乱していましたが、自分でスケッチを描くと、ようやく分かってきました。
この建築、9ヶ所でしか接地してないんです。
6枚のRC壁は三角形で1ヶ所接地していて、内側のヴォールトで抑え込んで固定しているのでしょう。

架構のラフスケッチ

この構成をどうやって思いついたのか、、、すごいアイディアですね。
それを実現させてしまう施工もすごい。
古い建物ということもあり、
このRCの組合せ(跳ね出し壁+中央ヴォールト)を在来RCで作るのは大変なコストと工期を要したことでしょう。
現場でプレキャスト…?にしても、
この大きなRC壁を振りわますのは相当な重機がいりますね。。

3. 意匠、設備とのコラボ

さすがにディテールは上手く納まっていないところもありましたが、
周りの木々に溶け込み、かつ構造体によって作られた軒下に人々が集まる姿を見ると、
周辺環境をよく読み解いた建築なんだなと思いました。
中央も半地下外部とすることで、
風もよく抜けていました。

中央半地下から外周軒下への抜け

構造体がコンクリートのグレーで、軒天と外壁が白。
グレーの部分が影になって、白い円盤が浮遊しているような感覚になりました。
色の使い分けによる印象操作も面白いですね。

グレーの壁は影でより暗くなり、白い軒天と外壁が強調される

少しだけ中の講義室も覗けましたが、
外周の窓周りの柱梁はスレンダーのため、
開口を大きく確保できており、すっきりとしていました。
扇形平面の特徴を上手く生かして、
半径方向にライン照明を設置する納まりも見られました。
天井がギザギザになっているのは
屋根の折板形状に対応しています。
意匠と構造、設備が上手くマッチしていますね。

講義室内の天井(窓は残念ながらカーテン、、)

4. 日本との違い

日本だと跳ね上がりの先端は、
時刻歴応答解析をして、鉛直振動のケアをしますが、
タイではどうなんでしょうね。
地震が無いと関係ないのでしょうか。
この建物の場合、根本側の上下からしっかりとサポートしてること、規模が平屋であることから
気にならないオーダーなのかもしれませんが…

マヒドン大学にはバンコク都外にもサラヤキャンパスがあり、そこにも面白い建築があるみたいなので、いつか行ってみたいと思います。


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