不老長寿に関する大真面目な議論たち
人間の寿命はここ数十年、確実に延びています。そんな中「不老長寿/不死」について真剣に議論する人たちも増えてきています。永遠に死なないという概念は、まだScience Fictionの域を出ていないかもしれませんが、100歳を超える人生が現実味を帯びてきているのは事実です。こうした長寿化の進展は、医療分野だけでなく、社会全体に大きなインパクトをもたらしつつあり、今や避けては通れない課題として私たちに突きつけられています。
日本人にとってなじみ深いアニメ『サザエさん』のキャラクターたちを見てみましょう。サザエさんのお父さんお母さんである波平さん、フネさんは、いかにも年長者として描かれていて、個人的には70代くらいの印象を受けたのですが、波平さんは54歳、フネさんも50代。『サザエさん』が連載を開始した当時、世界の平均寿命は40代(参考:https://www.macrotrends.net/global-metrics/countries/WLD/world/life-expectancy)だったので、50代の彼らが年配者として扱われていても不思議はありません。ところが、現代の50代はずっと若々しい印象がありますよね。この70年間で、私たちの年齢に対する感覚も大きく変わってきたのではないでしょうか。実際、世界の平均寿命は現在73歳となり、この期間に30年近くも伸びました。これは、医療の発展や社会システムの改善が大きく寄与し、病気や貧困から救われて長寿を全うする人々が増えたためです。
では、70年後の2100年には平均寿命がさらに30年延びて100歳に到達するのでしょうか?そのあとも、人間の寿命はどんどん延びていくのでしょうか。これについては、賛否が分かれますが、現状では「そうはならない」と考える専門家が多いようです。その理由の一つは、寿命延長の速度が鈍化しているからです。これまでの長寿化は、予防・治療しやすい疾患に対する医療の発展が主な要因でしたが、今後は治療が困難な病気への対処が必要になり、これまでのような大きな効果を得るのは難しいとされています。
また、生物学的な限界も議論の一つです。人間の細胞は新陳代謝の過程で分裂を繰り返しますが、この分裂回数には限りがあります。この「ヘイフリック限界」によると、通常の細胞は約50回ほどしか分裂できません。そのため、仮にすべての病気が克服されたとしても、細胞の代謝が滞ることで最終的に命を終えることになります。(*ちなみに、「老化」を病気とみなすかどうかについては最近議論が進んでいますが、ここでは純粋な老化そのものを病気とは別に考えています)ヘイフリック限界による寿命が近づいているのだとすると、どこかでそれを超えるための全く新しいイノベーションがない限り、人間の寿命は頭打ちになるかもしれません。
一方で、近年人間の寿命が長くなってきていることは間違いなく、真剣な議論や対策が進められています。たとえば、アメリカの起業家であるBryan Johnson氏は、この分野で注目される一人です。彼はかつての企業家時代に過酷な労働と不健康な生活を送っていましたが、現在は「Don't Die(死なない)」を目標に掲げ、長寿時代にどこまで健康で若々しくいられるかを探るために莫大な資金を自らの実験に投じています(参考:https://www.theguardian.com/society/2023/sep/14/my-ultimate-goal-dont-die-bryan-johnson-on-his-controversial-plan-to-live-for-ever)。彼は最先端の科学技術や医療手法を駆使し、徹底した健康管理と体内モニタリングを行いながら、老化のスピードを遅らせる取り組みを続けています。
一方で、世界的な富豪であるイーロン・マスク氏は意外にも、不老長寿には興味がないと発言しています(参考:https://36kr.jp/181107/)。彼の理由は独特です。マスク氏は、既に世界中で高齢のリーダーが多すぎることに言及し、「人が死なないなら、我々は古い考えに縛られ続けることになる」と懸念を示しています。つまり、寿命が無制限に延びた場合、社会の変革や革新が阻害され、新しいアイデアや視点が出にくくなると考えているのです。マスク氏は、時代の変化に対応するためにも世代交代が必要であると主張しています。
人間がより長く、健康に生きることが前提となれば、社会の仕組みや働き方、さらには人生設計そのものも変わらざるを得ないでしょう。少子高齢化が進む日本においても、こうした動向は非常に興味深く、今後の長寿社会への対策として無視できないものとなっています。
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