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リーダーに「本音」は必要?:なぜアメリカのリーダーは“Authentic”でいなければならないのか

アメリカのビジネススクールに通っていたとき、「Authenticなリーダーシップ」を推奨する論文に何度も触れる機会がありました。このテーマが面白いのは、日本のビジネス界ではほとんど耳にしない点です。なぜこの考え方がアメリカで強調されるのか興味が湧きました。

ここでいう「Authenticity」とは、リーダーが自分の内面にある本質的な信念や経験を深く理解し、それに基づいて行動することを意味します。リーダーシップ理論においてこの概念を提唱したビル・ジョージ(Bill George)は、著名な論文「Discovering Your Authentic Leadership」でこの重要性を説明しています。スタンフォードビジネススクールのアドバイザリー・カウンシルのメンバー75名に「リーダーが身につけるべき最も重要な能力」を尋ねたところ、ほぼ全員が「自己認識」と答えたとされています。(Discovering Your Authentic Leadership)

この違いは、日本とアメリカの「リーダーシップ像」が異なることから生じています。アメリカでは、リーダーが自分の価値観や信念に忠実であり、感情や弱みも含めてオープンにすることが美徳とされます。背景には、個人主義が根付いた文化があり、「自分らしさ」を大切にする価値観が組織にまで広がっています。例えば、Authenticなリーダーは信念に基づいて行動し、チームからの信頼を勝ち取ることが期待されています。

一方、日本ではリーダーは調和を重んじ、個人の考えを前面に出すよりも、組織全体の一貫性や円滑な人間関係を優先します。個人の信念よりも役割を演じることが評価される傾向が強く、リーダーは調整役や仲介者としての働きを求められます。そのため、「Authenticなリーダーシップ」という概念があまり重視されないのです。

一方で興味深いことに、アメリカでAuthenticityが推進される背景に、リーダーが常に「Nice」でいなければならないという強烈なプレッシャーがあるのではないかと感じます。特に、MBA卒業生から人気のような企業では、リーダーがpolitically correctであることを求められる場面が多く、日本のように部下と飲みに行って本音を語り合うような親密な関係は成立しません。むしろ、そうした関係性は「不適切」と見なされることもあるほどです。

さらに、アメリカの洗練された企業のビジネスマンたちは、非常に強いコネ社会とピアプレッシャーの中で生きています。これに加えて、自分自身のレピュテーションを基盤に日本に比べてはるかに頻繁に転職を繰り返すことも一般的です。結果として、自分の本音やAuthenticityを綿密に「設計」し、戦略的に自分自身をマーケティングする必要が生まれます。とはいえ、日本のようにありのままを不器用にさらけだしてしまうと、好かれるどころかあっという間に不適切なレッテルを貼られてしまう厳しい現実が待っています。自分らしさを出すにも、強いプレッシャーがかかっているのです。

このようなプレッシャーの中で、リーダーの正しいAuthenticityが重要視され、その方法論が体系的に研究される理由が見えてきます。リーダーが自分の本音を効果的に、かつ正しく伝える仕組みが求められる——そんなアメリカの職場の現実が浮かび上がってくるのです。

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