見出し画像

科学の発展で人生の形が変わりつつある:100年生きると何が起こるか

以前、平均寿命が長くなっている話を書きましたが、それを受けて「ライフ・シフト」という考え方が注目されていることをご存じでしょうか?この概念は、2016年にロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン氏とアンドリュー・スコット氏が出版した同名の本で詳しく解説されています。

病気の撲滅と健康長寿という人類の悲願が実現したとしたら、次に何が起こるでしょうか。もし平均寿命が100歳に近づき、健康寿命も80歳に達したと仮定すると、80年近く働くことが必要になります。これは遠い未来の話のように感じるかもしれませんが、私たちは少しずつその現実に近づいているのです。

この長寿社会では、20代で始めた仕事を長年にわたり同じように続けられるとは限りません。プライベートな状況も60年間変わらないわけではないでしょう。そこで、人は「マルチステージ」の人生を送ることになる、というのがライフ・シフトの考え方です。たとえば、20代で大企業に就職し、結婚した後に、40代で得た経験を活かして独立する。その後は、家族との時間を重視しながら大学院で学び直し、よりバランスの取れた働き方を選択する。さらに高齢期には、これまでの人脈やスキルを活用して新しい仕事を始める…そんな人生の複数のステージを経るのが当たり前になるのです。

日本では、戦後の終身雇用制が定着し、「子供期、仕事期、老年期」といった3つのステージがくっきり分かれている人生設計が一般的でした。しかし、長寿化やビジネスのグローバル化に伴い、そのモデルにひずみが生じています。高齢者の再雇用の課題や、企業がスピーディな変化に対応する必要から、終身雇用制の維持が難しくなっているのです。現場で解雇規制が企業の競争力を損なう要因となっている場面を何度も目にしました。(ここでは良し悪しの議論ではなく、企業の存続や競争力の観点から述べています。)

現在、副業の推進などで、ある意味ではマルチステージな働き方を促す企業も増えています。しかし、働く私たち自身がこの意識を持たなければ、真の「ライフ・シフト」は起こりません。企業がかつてのように終身サポートをしてくれないことに対する不満を抱くだけで終わってしまうかもしれないのです。

科学の進歩は喜ばしいことですが、私たち個々人の人生に対する向き合い方、そして企業や学校、それらを含む社会の「常識」が、それに追いつく速度でアップデートされなければ、科学の恩恵をうけるどころか、社会が混乱することになってしまいます。この課題は大きなパラダイムシフト(観点の変換)を伴うことからも、早め早めに、色々な場で議論を始めていくべきであると考えます。

*リンダ・グラットン氏の『ライフ・シフト』は、日々の慌ただしい業務から離れ人生を振り返る時間があるときにじっくり読みたい本です。年末年始に読むのも良いかもしれません…と書いていたら、投稿する前に年が明けてしまいましたが、つぎはGWにでも。


いいなと思ったら応援しよう!