スタートアップはなぜ日本で栄えないのか2:エンジェル投資家という存在
今住んでいるアメリカの地域は、バイオスタートアップが非常に盛んな場所です。以前の投稿でも触れましたが、アメリカにおけるベンチャー企業の活況は、日本と比べものになりません。以前、個人がお金を稼ぐことに対する日米の文化的な違いについて述べましたが、もっと直接的な要因は「資金」です。ここには豊富な資金が集まり、それが成長を支える強力な土壌となっています。
たとえば、アメリカ・マサチューセッツ州が世界一のバイオスタートアップ集積地であることを示すMassBioの「2024 Industry Snapshot」 (MassBio 2024 Industry Snapshot) によれば、バイオスタートアップへの投資は87.2億ドル(約1兆円)にも達しており、これは日本全体のバイオスタートアップ投資額を大きく上回っています。注目すべきは、この投資の背景には、政府機関からの補助金やベンチャーキャピタルだけでなく、個人投資家の存在があることです。こうした個人投資家は、ビル・ゲイツやジェフ・ベゾスといった巨万の富を持つ有名人に限らず、多様な背景を持つ一般の人々も含まれています。
興味深いのは、これらの個人投資家が必ずしもヘルスケア領域の専門家ではないことです。彼らの多くは、もともと医療の専門知識がないにもかかわらず、深い理解を得た上で投資を行っています。中には、家族が治療法のない希少疾患や効果のないがん治療に直面したとき、彼らは自らの資金を新薬開発に投じる道を選び、医療の進歩に貢献することを決めた個人もいます。たとえ治療の効果が間に合わない可能性があっても、怪しい医療に頼る代わりに、自分の力で治療法を求める。その発想にはアメリカらしさが感じられます。
この話を聞いたとき、私はMITのファイナンス教授であるAndrew Loのことを思い出しました。彼はかつて、特にヘルスケアとは無関係なファイナンスの教授でしたが、母親のがん闘病を通じて、ファイナンスの知識で新薬開発を加速させたいと考え、ヘルスケアファイナンスの分野に転向しました。今や彼のモデルは、医療投資の効率的なフレームワークとして注目を集めています。
日本とアメリカでは、病気や災害に対する考え方も異なり、日本は自然中心の文化で病気や災害もある種受け入れる傾向が強いとされますが、アメリカは人間中心の文化で、徹底的に対抗する姿勢が特徴的だと言われます。これは一概にどちらが良いというものではありませんが、創薬イノベーションという「人間が自然(病気や寿命)に反乱する」ような行為には、アメリカの文化の力強さが良い影響を与えるのかもしれません。
自分のお金を世界をよくするために投じるという考え方は個人的に好きなので、日本でも広まるとよいなと感じます。
*エンジェル投資家について、こちらの記事がわかりやすかったです:https://toyokeizai.net/articles/-/305100
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