「動物園の良いところ」に認定された話
僕の仕事は、動物園の草刈をすること。
今年の4月から始めたばかりだが、職場環境は良好で、なんとかやってこれている。
ところで、一口に「草刈」と言っても、やることはけっこう多岐にわたる。
基本は刈払機をヴィーヨンヴィーヨン動かす仕事なのだが、それだけではない。ほかになにをするか、わかる人ー。んー、いないかー。じゃあ、今日は26日だから、出席番号26番の人は……三毛田か。三毛田ー。みけ……あ、今日は休みかー。じゃあいっか。
一部を紹介すると、刈った後の草を集めるという作業がある。その際、「ブロワー」と呼ばれる風を出す機械を使い、葉っぱや茎なんかを飛ばすのだ。
このブロワーがまた大変で、あっちゃこっちゃ飛ばしたり、飛ばしたくないものまで飛ばしたり、慣れないと扱いが難しい。あとシンプルに重いのでめっちゃ肩がこる。
さらに、これを決められた時間内に終わらせなければいけないというのが難所なのである。こと雨の日は、草が地面にへばりつくので、より時間がかかってしまう。
このように、単純な草刈作業だけでなく、関連するさまざまな業務が付随しているので、一筋縄ではいかないのである。
先日、小雨の降る中でブロワー作業を一生懸命やっていたときのこと。お客様から声をかけられた。
「すみませーん」
振り返ると、そこにいたのは地元の高校生たち(5か6人くらいのグループ)だった。指定ジャージに「N高」と印字されている。母校ではないが、地元なので当然知っている高校だ。
平日の午前だから、遠足だろうか。そんなことを考えていたら、どうも少し違ったようだ。
「この動物園の良いところを探していて、作業してるところを写真に撮りたいんですけど、良いですか? 後ろ姿でかまわないので」
「写真、ですか……」
どうやら、総合的な学習の時間かなにかで、動物園の取材をしているようだ。
このアルロン、普段なら写真撮影は1枚1,000円~(要相談)なのだが、勉学に励む若人の力になれるのならば、しゃーない、特別に撮らせてあげよう。
「わかりました」
そう答えて、僕は真剣な表情という名のキメ顔で作業を続けた。
改めて思い返すと、とても嬉しかった。だって、自分の仕事ぶりが「良いところ」認定されたのだ。お客様に「この人は一生懸命働いていて素晴らしい」と思われるなんて、この上ない光栄だ。
それに、N高生たちの観点が素敵だ。エンターテインメントとして見栄えする部分以外にも、一介の作業員をチョイスしたのだ。
きっと彼ら彼女らは、「どんなに地味で小さな仕事でも、それをやる人がいなければ全体として成立しない」ということをわかっている。自覚しているかどうかは別として。
僕らの生活は、地味で小さな仕事の集まりで成り立っている。
今まさに使っているこのパソコンだって、部品を作る人、ソフトを作る人、仕入れる人、売る人、運ぶ人……いろいろな人の力が合わさったことで、僕の手元に届いている。そのどれか一つでも抜けてしまったら、成立しないのだ。
僕のやっている仕事の大切さが、N高生を通じてたくさんの人に届いてくれれば、草刈アルバイター冥利に尽きる。僕の写真がどういう形で使われるのかは不明だが、地味で小さな点に目を向けた彼ら彼女らには、ぜひ賛辞を呈したい。
ただし、「カッコよく撮れました?」って聞いたときに「あっ、はい……」と微妙な表情で返答したことだけは減点させていただく。
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