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もう二度と、僕は長ぐつアイスホッケーをやらない。
長ぐつアイスホッケー:長靴を履いてアイスホッケーを行うスポーツ。
北海道出身だからといって、皆が皆ウィンタースポーツに現を抜かしていると思わないでほしい。
中には、「冬はやっぱりサビーナ~」と身を縮こませながら、ストーブの前で体育座りをしている人種だっているのである。
さらには、僕は道東(北海道東部のこと)出身ではなく、スケート経験はおろか、スケートリンクに入ったことすらない。
そんな僕に「長ぐつアイスホッケーやらないか」と声をかけた先輩は、大変失礼ではあるが、常軌を逸しているとしか思えない。
そりゃあね、ピチピチの新卒ですから? 先輩の言うことは絶対に等しかったわけですから? やりますよ。ええ、やりますとも。
◇
不本意ながら、長ぐつアイスホッケーをやることになった。社会人1年目の冬のことだ。
わらわらとリンクに集まり、簡単な説明を聞かされ、レンタルの道具やら防具やらを受け取る。
先輩(声をかけた人とは別)が僕にゼッケンを渡した。番号は「1」となっている。
そして彼は、僕に絶望を与える一言を発した。
「アルロン、お前キャプテンな」
キャプテン!?
キャキャキャキャプテン!?!?!?
おいおい、大丈夫なのかこのチーム!?
ろくにスケートも滑ったことのない人間をキャプテンにするだと!?
しかも、キャプテンはフィールドを縦横無尽に駆け回る、非常に疲れるポジションだというではないか。
冗談じゃない! こんな競技やってられっか! バーカバーカ!
…なんて言えるはずもなく、僕はテンションどおり低い声で「はい」と答えるしかなかった。
ついに長ぐつアイスホッケー大会が始まった。始まってしまった。
チームは全部で4つ。試合は総当たり戦で行われる。
社会人だけでなく、地元の小学生のチームもあった。皆アイスホッケー少年団のメンバーなので、どう考えても僕より上手だ。
長ぐつアイスホッケーの基本ルールはよく知らないが、スティックでボールをゴールに突っ込めばいいみたいだ。
ボールを打つか蹴るかの違いだけで、基本的にはサッカーと同じ要領というわけか。
試合開始のブザーが鳴った。
ボールは相手チームにある。
とりあえず、ボールを相手からなんとか奪取しなくては。
…と思ったら、味方がボールを捉えた。そして、チームメイトが叫ぶ。
「アルロンー! 上がれー!」
僕は駆け出した。氷上では、走るより速く我が身を風に乗せられた。
しかし、誤算があった。止まれない。
「わーーーーー」
ボール奪いの小競り合いをしている集団を抜け、相手のディフェンスを抜け、相手のゴールを抜け、僕はリンクの壁に衝突した。いってぇ。
振り向くと、ボールはなんと相手チームに。
すかさず、チームメイトが叫ぶ。
「アルロンー! 下がれー!」
僕はまた駆け出した。運動量だけは、このスケートリンク内の誰よりも多い自負がある。
しかし、技術は未熟。やっぱり止まれない。
「わーーーーー」
今度こそ止まろうとジタバタするが、走り出した僕を止められるものは何もない。こんな言い方だとなんかちょっとカッコいいが、ただ下手くそなだけなのである。
フィールド上の全員をごぼう抜きにした後、案の定リンクの壁(今度は味方のゴール側)にびたーんとぶち当たった。いってぇ。
すると、またチームメイトの声が聞こえてきた。
「アルロンー! 上がれー!」
無理無理無理無理! もうやめて! とっくにアルロンのライフは0よ!
…なんて言えるはずもなく、僕は再三ロケットスタートを切ることになった。
しかし、千代の富士さながらに体力の限界である。苦手なスポーツ、慣れないリンク、キャプテンの重圧、すべてが僕の体力を蝕んでいた。
ヘロヘロになりながらもなんとか前に進もうとする。あまりにもヘロヘロすぎて、普通に滑走することもままならない。僕は何もないところで転んでしまった。
すると、観戦していたアイスホッケー少年団の小学生が、僕を指さしこう言った。
「あはは! 何あれー!」
屈&辱。何が悲しくて小学生に蔑まれなければならないのか。
大学を卒業して、見知らぬ町に一人移り住み、粛々と公務を全うしてきた。にもかかわらず、こんな仕打ちを受けることになろうとは。このことをお母さんが知ったら、涙がちょちょぎれること必至だ。
決めた。もう二度と、僕は長ぐつアイスホッケーをやらない。
もうやらないからな! 誰か長ぐつアイスホッケーなんてやってやるもんかよ! バーカバーカ!
…なんて言えるはずもなく、数年後、また先輩に声をかけられた僕は、再び氷上のピエロと化すことになる。
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