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天使と悪魔と小悪魔と【ショートショート】

百万円を拾った。
35歳独身ニートの俺には、願ってもないほどの大金だ。
周囲を見渡す。ここは閑静な住宅街のはずれ。人っ子一人いない。

なぜこんなところに百万円があるのかなんて、どうでもいい。大事なのは、俺が百万円を拾ったということだけだ。

この百万円をどうするか。俺の脳内で悪魔が語りかけてくる。

「やったな兄弟!これでパーッと遊ぼうぜ!」

あ、そういう感じのキャラなんだ、悪魔。洋画に出てくるお調子者みたいな。
それにしてもこんな大金、なかなかお目にかかれやしない。悪魔の言うとおり、派手に使ってみたい気もする。ビックリマンチョコを箱買いしたり、マクドナルドのポテトとドリンクをLサイズにしたり、サーティワンでトリプルを注文したり、今までやりたくてもできなかったことを実現させるチャンスだ。

そんな邪なことを考えていると、どこからともなく声がする。これは脳内の天使だ。

「ダメだよ。このお金でスーツを買って、就職活動しなきゃ」

あれ、天使ってこういう提案するんだっけ?普通「交番に届けなさい」とか言うもんじゃないの?拾ったお金を懐に入れるのは前提なんだね。

「あと、床屋で髪をさっぱりしてもらいなさい」

今度はなんかお母さんみたいなこと言ってきたぞ。あとそこは美容室じゃないんだ。妙なところで生活感があるな、この天使。

うーむ、確かに悪魔の提案では散財して終わるだけだ。一時的な快楽は、その後の喪失感がハンパない。それよりも、身なりを整えて真面目に就職活動する方が、建設的ではある。

どうしようか悩んでいると、脳内に3人目が登場した。

「えー、すごーい!百万円じゃーん!」

誰?なんかギャルみたいなのが出てきたぞ。心なしか、天使も悪魔も引いてる気がする。

「こんな大金でも一切手をつけずに交番に届ける人って、超カッコいいよねー」

あ、わかった。こいつは小悪魔だ。
俺を良い感じにおだてて、自分の思い通りに動かす魂胆だろう。だがな、俺はお前の掌の上で踊るつもりはない。その手のハニートラップには引っ掛からないぞ。

小悪魔の提案を聞いていた天使が、反撃に出た。

「待って!そんなことしたら、お金が手に入らないでしょ!元の持ち主がお礼をしてくれるとは限らないんだから!」

お前は天使というより守銭奴だな。
でも確かに、今の俺にはお金が必要だ。このお金を元手に、新たな人生をスタートさせることは十分できる。やはり、これからは真面目に働いた方が良いんだろうか。

天使の意見に、小悪魔が待ったをかける。

「でもさー、お金拾ったら交番届けた方が良いって、にこるんも言ってたしー」

小悪魔の手本は藤田ニコルなのか。ギャル界のカリスマとしてはやや古い気がしないでもないが、にこるんも結婚してだいぶしっかりしてきたのかねぇ。ていうか、こいつさっきから天使より天使っぽいこと言ってるぞ。

小悪魔と天使の言い争いを聞いていた悪魔が、しびれを切らして声を上げた。

「おいおいおいおい!お嬢ちゃんたち!スーツを買って就職活動するだの、交番に届けるだの、正気か?HAHAHA!片腹大激痛だぜ!そんなもったいないことすんじゃねぇ。ストレス溜まってんだからよぉ、パーッと使ったらいいんだよ!」

ワードセンスに若干イラっとするが、悪魔の言うことも一理ある。
だらだらと過ごす毎日。楽しいことも苦しいことも特にない、ただただ退屈な時間が流れるだけ。このお金で思いっきり羽目を外したら、何か変わるかもしれない。

よし決めた。俺はこれからコンビニへ行く。そして、手始めにビックリマンチョコを買い占めるぞ!

俺は悪魔に魂を売った。しかし、小悪魔は諦めない。

「えー、ビックリマンチョコー?つまんなーい。グミにしよ、グミ!」

天使も負けじと意見する。

「コンビニだと高上がりだからダメ!ドン・キホーテにしなさい!」

こいつら、一体何がしたいんだろう。


脳内で一人ディベートを繰り広げていると、不意に何者かが現れた。サングラスをかけた大柄な男だ。怖い。
男は俺の目の前に立ち、こう言った。

「それ、私が落としたお金です」

怖い。アーノルド・シュワル・・・ツェネグァーのような迫力に圧倒され、俺は硬直した。

脳内の3人が、血相を変えて何か叫んでいる。さっきまで言い争っていた3人だったが、めずらしく意見が一致したようだ。

「どうぞ」

俺は男にお金を渡し、逃げるようにその場を去った。


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アルロン
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