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昭和39年7月山陰北陸豪雨(1)

JRA-55を活用した、豪雨の事例解析です。3回に分けて掲載する予定です。

JRA-55を利用する上では、次のことを注意して解析することにしています。利用している格子点データの空間間隔は緯度・経度1.25度毎、時間間隔は6時間毎です。このためにメソスケールの現象を考察することは難しいため、総観場の気象状況中心の事例解析となります。メソスケール現象について考察する場合は、総観規模擾乱により生じる環境場を主に考察することとします。ご了承ください。

昭和39年7月山陰北陸豪雨(このリンクは、気象庁の「災害をもたらした気象事例」からです)をとりあげます。衛星観測がなく、山陰ではレーダー観測も始まっていない年代です。JRA-55を使って、この豪雨の要因を推測していきます。

記録的な降水量と被害の概要

昭和39年7月17日から20日にかけて、山陰地方と北陸地方では記録的な大雨が降り、土砂災害や洪水による浸水害が発生し大災害となりました。松江では24時間雨量は306.9mm、金沢は249.0mmを観測し、両地点共に現在(2021年10月)でも通年の記録第一位となっています。

消防白書によると、この大雨により、死者114名、行方不明者18名、住家全壊669棟、床上浸水9,360棟などの大きな被害が発生していました。

総雨量の分布図を下に示します。島根県東部では300ミリ程度、金沢市から富山市にかけて250mm程度の大雨となっています。島根半島から金沢市付近にかけて前線が停滞して、帯状に総降水量が多くなっている可能性や、線状降水帯が発生した可能性もありそうです

総雨量分布図
昭和39年7月20日9時までの72時間雨量
出典:昭和39年7月17日〜19日の山陰,北陸豪雨速報 気象庁予報部

前述の気象庁HPにある「災害をもたらせた気象事例」の中に、松江市と金沢市の雨量の時系列図があります。

金沢
金沢の降水量時系列図(昭和39年7月) 気象庁HPより
松江
松江の降水量時系列図(昭和39年7月) 気象庁HPより

この2つの時系列図から、金沢の大雨の降り始めは18日1時から、松江では10時から、両地点とも20mm程度の1時間雨量が10時間断続しています。ただし、松江は18日23時頃に2度目の大雨のピークがあって、この点は金沢と異なっています。これらの地点における雨の降り方の違いの要因を検討していきます。

さらに、気象庁HPの「災害をもたらせた気象事例」には、チェジュ島付近で消滅した熱帯低気圧(台風第7号から変わったもの)影響で、日本付近には高温多湿な南西気流が流入し、大気の状態が不安定となっていたという記述があります。この多湿な空気は対馬海峡を通過して日本海に入っていたかも確認していきます。

事例解析の目的

この豪雨に関して次の3点に焦点をあてて、JRA-55を活用して推測していくことにします。ただし、JRA-55にも誤差があり断定できないことには留意してください。
  課題① 金沢市と松江市の大雨の主な要因は
  課題② 松江市の2回目の雨のピークの要因は?
  課題③ 台風第7号起源の湿った暖かい空気が大雨要因の一つとなったか?

7月17日から18日の前線解析

JRA-55から地上天気図を作成し、前線解析を行いました。ここでは示しませんが、地上だけではなく下層の温度や風の解析も参考にして解析しています。

下の図は18日21時の天気図に、17日9時から19日09時まで12時間毎の低気圧(丸印)と前線(破線)を示しています。これから、この期間に前線を伴う2つの低気圧が黄海付近から東北地方や北陸地方に進んでいることがわかります。最初に本州に接近した低気圧(以後、低気圧Aと記述する)は、17日9時に黄海付近にあって、その後は北緯37から39度付近を東ないし東北東へ進んで、18日21時には北海道の南海上に達しています。2つ目の低気圧(以後、低気圧Bと記述する)は、低気圧Aより南を進んでおり、18日9時に黄海付近にあって、18日21時に三陸沖へ進み、19日9時には新潟県付近に達しています。

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17日9時から19日09時までの12時間毎の低気圧と前線の位置
天気図は1964年7月18日21時

この前線解析から、金沢市では大雨が降った期間(18日1時から11時)は、低気圧Aの前線の暖域内に位置し、その後は寒冷前線が接近している状況でした。一方、松江市では大雨が降った期間(18日10時から19時)は、2つの低気圧の間の東西にのびる前線がすぐ北側に停滞し、低気圧Bが接近している状況でした。このことから、北陸と山陰では同一の降水帯や同じ要因の大雨ではない可能性がありそうです。

課題①の大雨の要因の一つとしては、前線を伴う2つの低気圧と、前線の南側に太平洋高気圧の縁辺をまわる暖かく湿った空気が流れ込み、これによる前線活動の活発化と推測できそうです。

課題②については、19日0時頃に松江市で大雨の2度目のピークが観測されていますが、その頃に低気圧Bが松江市のすぐ北の海上を通過したことが影響していると推測できそうです。

今回はここまでです。次回は、上層天気図や断面図解析を使った解析を予定しています。







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