シニアタイムズ第13話 孫娘の残り香
孫娘の「おばあちゃま」という声が聞こえる。
両親と一緒にデンマークに帰ってもう5日も経つというのに。
部屋を片付けていると、孫娘の残していった作品たちにふっと手が止まる。
粘土を混ぜた作品が宝石にみえる。
なぐり書きの絵がピカソに見える。
一緒に作ったよね、とちょっぴりメランコリーにもなってしまう。
1歳の時に日本に帰国し、3年間を一緒に過ごした。
3歳になるまでは、「ああ、かわいいな」という思いが
続くだけだったけれど、
4歳になり、言葉が話せるようになり、
きちんとコミュニケーションができるようになると、
それまで感じたことがない温かな関係になった。
まるで小鳥の囀りのような「おばあちゃま」と呼ぶ声。
いつも繋いだ手は、ふわふわのマシュマロのようで、
こわさないようにしっかり握るのが嬉しかった。
「チョコレートいくつほしい?」
「2個」と孫娘。
「はい、じゃあ、2個ね」と手渡すと、
「あと2個ちょだい、だって4歳だから」と。
交渉してくる。
もちろん、彼女の手には4個のチョコが。素敵な時間。
いつでもオンラインで会えるから、という時代だけれど、
あの、ふんわりした温度を感じるのはむずかしい。
孫娘がおいていってくれた可愛い残り香に会うたびに、
3年前、娘が孫娘を連れて帰国した時に言ってくれた言葉を思い出した。
「一番可愛い時期を一緒に過ごしてもらいたくて。」
そう、一番可愛い時を一緒にすごせました。
世界で一番素敵なプレゼントでした。
ありがとう、ありがとう。
いつか来た道、いつか来る道、
おなじ道なら、一瞬一瞬を大切に。
幸せな時間は羽が生えて飛んでいくのも早いからね。
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