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技術と倫理のカンケイ~技術士倫理綱領とは:技術倫理と持続可能な社会 第1回
シリーズ: 技術倫理と持続可能な社会
概要: 技術は社会のあらゆる側面に影響を与える。だが、技術の進歩は常に人々に恩恵のみをもたらすとは限らない。倫理的な視点を欠いた技術の利用は、環境破壊、格差の拡大、人権侵害など、深刻な問題を引き起こしうる。本シリーズでは、技術倫理の重要性を改めて確認し、持続可能な社会を築くための道筋を探る。願わくは、技術を活用するすべての人々にとって、倫理的な思考を深め、より良い未来を創造するためのヒントの一つとなるように。
1. はじめに
現代社会において、技術は社会のあらゆる側面に浸透し、その影響力は増大し続けている。技術の進歩は、人々の生活を豊かにする一方で、倫理的な課題も引き起こす。
技術士は、高度な技術力を持つ専門家として、倫理的な視点を持って業務を遂行することが求められている。技術士資格の特筆すべき点としては、明示的に倫理綱領が定められていることが挙げられる。また、技術系の資格では珍しく、2000年から必須試験内容に含む形で倫理項目を取り入れている。
本稿では、技術士倫理綱領の重要性を改めて確認し、技術と倫理の関係について考察する。
2. 技術士倫理綱領の概要
技術士倫理綱領は、技術士が業務を遂行する上での行動規範を定めたもので、以下の3点を最重要事項としている。
公益の優先: 公衆の安全、健康、福利を最優先に考慮すること。これは倫理綱領の中で最も重要な原則である。
持続可能性の確保: 地球環境の保全など、将来世代にわたる社会の持続可能性の確保に努めること。
技術士としての品位保持と資質向上: 常に技術の研鑽に励み、中立・公正を心掛け、倫理的に行動することで、技術士としての使命、社会的地位、職責を自覚すること。
これらの原則を具体的に示すために、以下の項目も明示されている。
有能性: 常に能力の向上に努め、力量の範囲内で業務を行うこと。
真実性・公正性: 誠実に行動し、捏造や改ざんなど不正行為を行わないこと。
秘密の保持: 業務上知り得た秘密を保持すること。
信用の保持: 技術士の信用を傷つけるような行為をしないこと。
法令遵守と文化的価値の尊重: 業務対象地域の法令を遵守し、文化的価値を尊重すること。
相互の協力・尊重: 他の技術者や関係者と協力し、互いを尊重すること。
情報開示と説明責任: 業務内容や結果を適切に説明すること。
3. 倫理とは何か
倫理とは、「人の思考や行動において、何が正しく何が間違っているのか」、「人はどう生きるべきか」などを考察する学問分野である。倫理の「倫」という文字は「仲間」や「人々のまとまり」を、「理」という文字は「事柄の道理や真理」を意味する。そのため、倫理という言葉は「人間が社会という人間関係のなかで、いかにして道理や真理に基づいて生きるか」という意味合いを持つと言える。
私自身は、倫理の根底にあるべきは、「自分自身や他者への深い敬意と幸福を願う気持ち」だと考えている。これは、単に法律や規則を守るだけでなく、相手の立場に立って考え、自身のみではなく相手の幸福も心から願うという、より深いレベルの観点からの概念かもしれない。
4. テック・オブリージュ(Tech oblige)
ノブレス・オブリージュ(Noblesse oblige)という言葉がある。高貴な身分に伴う義務、つまり特権階級はそれ相応の責任を負うべきという概念である。
これに対し、本稿では「テック・オブリージュ(Tech oblige)」もしくは、「エンジニア・オブリージュ(Engeneer oblige)」という概念を提唱する。これは、「高度な技術力を行使する者は、その能力に見合った倫理的な責任を負うべき」という考え方である。
技術士は、高度な技術知識と経験を持つ専門家として、社会に大きな影響を与える可能性がある。そのため、技術士倫理綱領は、単なる行動規範ではなく、エンジニア・オブリージュやテック・オブリージュを体現するための重要な指針となる。
例えば、技術士倫理綱領の「公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮する」という条文は、まさにオブリージュとしての「公益の優先」を具体化したものと見ることができる。技術士は、自身の技術が公衆の安全や健康に影響を与える可能性があることを常に意識し、最大限の注意を払う責任がある。
まとめ(第1回)
第1回では、技術倫理の基礎として、技術士制度と倫理綱領の概要、倫理とは何か、テック・オブリージュの概念について解説した。
技術士倫理綱領は、単なる行動規範ではなく、技術者が倫理的に行動するための重要な指針であり、テック・オブリージュを体現するための基盤となることを確認した。
技術は社会を大きく変える力を持っている。その力は、使い方によっては人々の生活を豊かにするだけでなく、逆に深刻な問題を引き起こす可能性も秘めている。だからこそ、技術に携わる私たちは、常に倫理的な視点を持ち、責任ある行動を心がける必要がある。
次回は、グローバル化、情報化、環境問題、技術革新など、現代社会における具体的な事例を通して、技術倫理の重要性をより深く掘り下げていく。これらの事例を通して、私たちはどのような倫理的な課題に直面しているのか、どのように向き合っていくべきなのかを考えていきたい。
(第2回へ続く)
参考
技術士制度とは
「科学技術に関する技術的専門知識と高等の応用能力及び豊富な実務経験を有し、公益を確保するため、高い技術者倫理を備えた優れた技術者」の育成を図るための、国による資格認定制度(文部科学省所管)である
技術士倫理綱領は、技術士が業務を遂行する上での行動規範を定めたもので、公益の優先、持続可能性の確保、技術士としての品位保持と資質向上の3点を最重要事項としている。