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技術を使うすべての人の持続可能な社会への責任2:技術倫理と持続可能な社会 第5回

シリーズ: 技術倫理と持続可能な社会
概要: 技術は社会のあらゆる側面に影響を与える。だが、技術の進歩は常に人々に恩恵のみをもたらすとは限らない。倫理的な視点を欠いた技術の利用は、環境破壊、格差の拡大、人権侵害など、深刻な問題を引き起こしうる。本シリーズでは、技術倫理の重要性を改めて確認し、持続可能な社会を築くための道筋を探る。願わくは、技術を活用するすべての人々にとって、倫理的な思考を深め、より良い未来を創造するためのヒントの一つとなるように。


(第4回からの続き)

6.4 日常に潜む倫理

日常的に倫理だの社会的責任だのを意識し続けるのは、実は、難しい。(少なくとも、私にとっては!)
ゆえに、技術を利用する人が、「用法・用量を守って正しく使い」さえすれば、ある程度までは、自動的にテック・オブリージュを実現できるような状態で、高度な技術を提供することは、重要なことだ。

倫理は特別な状況下でのみ意識するものではなく、日常生活の中に常に存在している。特に、テクノロジーが社会に深く浸透している現代においては、意識せずとも倫理的な判断を迫られている場面が多い。

例えば、SNSで情報をシェアする行為は、情報の発信者として、その情報の真偽や影響について責任を持つという倫理的な側面を含んでいる。また、生成AIを利用してコンテンツを作成する場合、アウトプットの真偽のみではなく、偏りや倫理的な問題点等についても配慮し、適切に利用する責任がある。
インフルエンサーじゃなくても、バタフライ効果を起こしうる。医療に関する質問への素人からの不正確な回答が拡散し、多くの人々に誤った知識を植え付け、健康を害することになるかもしれない。このように、日常生活のあらゆる場面で、私たちはテック・オブリージュに基づいた行動を求められている。

「用法・用量を守って正しく使い」さえすれば、ある程度まではテック・オブリージュを果たせるようになったとしても、注意しなくてはならない事柄
は多い。だからこそ、テクノロジーを利用するすべての人が、その利用によって生じうる影響を認識し、倫理的な責任を負うという「テック・オブリージュ」の考え方が重要となる。

6.5 テック・オブリージュの実践に必要なこと

テック・オブリージュを実践するためには、情報リテラシーが不可欠である。情報リテラシーとは、情報を適切に理解し、活用するための総合的な能力であり、具体的には、情報の真偽を見極める能力、情報源を評価する能力、情報操作のリスクを理解する能力、プライバシー保護に関する知識と意識、情報発信における責任の自覚などが含まれる。

例えば、インターネット上には真偽不明の情報や意図的に操作された情報が溢れているため、情報の出所や根拠を検証し、真偽を見極める能力が重要となる。また、情報は発信者によって意図的に操作されている可能性があるため、情報がどのように操作されうるのかを知ることは、情報を批判的に捉え、適切に判断するために不可欠である。これらの能力を育成するためには、体系的な情報リテラシー教育が重要となる。

(情報操作のリスクについては、参考書として、データは騙る(早川書房)をおススメしたい)

まとめ(第4回+第5回)

第6章では、第1回で提唱した「テック・オブリージュ」および「エンジニア・オブリージュ」について、特に現代社会におけるテクノロジーの普及と進化を踏まえ、考察してきた。

当初、「テック・オブリージュ」および「エンジニア・オブリージュ」は、高度な技術力を持つ専門家が負うべき倫理的責任として提示した。しかし、テクノロジーが社会に深く浸透し、誰もが高度な技術を利用するようになった現代においては、「テック・オブリージュ」の概念を拡張する必要がある。本稿では、「テック・オブリージュ」の概念を、「テクノロジーを利用するすべての人が、その利用によって生じうる影響を認識し、倫理的な責任を負うべきである」と再定義した。

この拡張された「テック・オブリージュ」の概念を、エンジニアだけでなく、一般消費者、アーティスト、ビジネスパーソンなど、あらゆる「テックを利用する人」に伝えたい。私たちはみな、技術を適切に活用し、持続可能な社会の発展に貢献する責任を負っている。

また、特定のエンジニアリング分野における専門家が負うべき倫理的な責任として、「エンジニア・オブリージュ」という概念についても改めて説明しました。これは、テック・オブリージュを支えるために必要な根幹でもあり、より専門的で具体的な内容を包含している。技術士倫理綱領は、まさにエンジニア・オブリージュを具体的に示したものであり、技術士はエンジニア・オブリージュと同時に、テクノロジー利用者としてテック・オブリージュも負っているという関係性を明確にした。

重要なのは、倫理は特別な状況下でのみ意識するものではなく、日常生活の中に常に存在しているということ。私たちは日常的なテクノロジーの利用を通して、常に「テック・オブリージュを求められている」という状態になっていると言える。だからこそ、テクノロジーを利用するすべての人が、その利用によって生じうる影響を認識し、倫理的な責任を負うという「テック・オブリージュ」の考え方が重要となる。

そして、このテック・オブリージュを実践する上で、特に重要なのが「情報リテラシー」である。情報を正しく理解し、適切に活用する能力は、現代社会において不可欠なスキルであり、テック・オブリージュの実践においても基盤となる。情報を鵜呑みにするのではなく、批判的に吟味し、情報源を評価し、情報の操作リスクを理解することで、私たちはより責任ある行動を取ることができる。

次回は、この情報リテラシーと、特に高校の情報科教育とのつながりについて、さらに詳しく掘り下げていきたい。情報科で学ぶ内容が、技術倫理やテック・オブリージュの実践にどのように役立つのかについて考察する。

(第6回へ続く)

参考

技術士制度とは
「科学技術に関する技術的専門知識と高等の応用能力及び豊富な実務経験を有し、公益を確保するため、高い技術者倫理を備えた優れた技術者」の育成を図るための、国による資格認定制度(文部科学省所管)である

日本技術士会Webサイト(https://www.engineer.or.jp/contents/about_engineers.html)より

技術士倫理綱領は、技術士が業務を遂行する上での行動規範を定めたもので、公益の優先持続可能性の確保技術士としての品位保持と資質向上の3点を最重要事項としている。

公益社団法人 日本技術士会「技術士倫理綱領」(https://www.engineer.or.jp/c_topics/009/009289.html)

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