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現代社会における技術倫理~事例から見る倫理1:技術倫理と持続可能な社会 第2回
シリーズ: 技術倫理と持続可能な社会
概要: 技術は社会のあらゆる側面に影響を与える。だが、技術の進歩は常に人々に恩恵のみをもたらすとは限らない。倫理的な視点を欠いた技術の利用は、環境破壊、格差の拡大、人権侵害など、深刻な問題を引き起こしうる。本シリーズでは、技術倫理の重要性を改めて確認し、持続可能な社会を築くための道筋を探る。願わくは、技術を活用するすべての人々にとって、倫理的な思考を深め、より良い未来を創造するためのヒントの一つとなるように。
(第1回からの続き)
5. 技術者倫理が重視されるようになった背景
グローバル化や情報化が急速に進展し、社会構造が大きく変化したことに加え、気候変動や感染症のパンデミックなど、地球規模の課題に直面する中で、倫理に対する意識がかつてないほど高まっている。以下、第5章では、2回に分けて、近年特に技術者倫理が重視されるようになっている背景を具体例を交えながら整理する。
5.1 グローバル化の進展と多様性の尊重
運輸・物流技術や情報通信技術の発達により、人やモノ、情報が国境を越えて移動するようになり、多様な文化や価値観に触れる機会が増えた。これにより、多様性を尊重し、社会の包摂性・包容力を高めることが求められるようになった。
事例: 衣料品のサプライチェーンにおける労働問題は、グローバル化によって引き起こされた倫理問題の典型例。グローバル企業は、海外の安価な労働力に依存する一方で、児童労働や強制労働のような倫理的な問題を見過ごさないような責任も求められている。ある国で発生した労働問題が、SNSなどを通じて世界中に拡散し、企業のブランドイメージに大きな影響を与える可能性がある。キャンセルカルチャーのような活動や反対運動への発展もありうる。(参考:経済産業省セミナー資料)
5.2 情報化社会と透明性の要求
インターネットやSNSの普及により、情報の発信が容易になり、発信された情報は瞬時に世界中に伝達される。同時に、フェイクニュースやプライバシー侵害などの新たな倫理課題も発生している。情報の透明性への要求も高まっている。
事例: クラッキングやランサム攻撃等による情報流出事件は、セキュリティの課題のみならず、情報化社会におけるプライバシー保護の重要性も示唆する。企業は、個人情報を適切に管理し、漏洩を防ぐための対策を講じる責任がある。また、チェーンメールのような情報拡散により、医療機関や公的機関等への不用不急の問い合わせが局所的に殺到し、通常業務に支障をきたす例もある。個人としても、入手した情報の透明性や信憑性を考慮して対応するなどの情報リテラシーが求められる。(参考:善意のメールのチェーンメール化を防ぐには...)
5.3 環境問題の深刻化と持続可能性
地球温暖化や資源の枯渇など、地球規模の環境問題が深刻化&表面化し、持続可能な社会の実現がより一層求められるようになっている。技術者は、環境負荷を低減する技術開発や、持続可能な社会の実現に貢献する技術活用を進めていく必要がある。
事例: レアアース(希土類元素)は、スマホや電気自動車などのハイテク製品に不可欠な素材だが、その産出は特定の地域に偏在している。特定の地域でのレアアースの供給不足は価格高騰を引き起こし、世界中のハイテク産業に影響を与え、経済活動全体にも波及する可能性がある。また、レアアースの採掘に伴う環境汚染は、地球規模の環境問題として認識され、国際的な規制や環境基準の策定につながる可能性もある。特定の国への依存を減らすために、リサイクル技術の開発や代替素材の研究も進められている。(参考:日本技術士会資源工学部会参考資料)
5.4 企業の社会的責任の強化
企業は、利益追求だけでなく、環境、社会、ガバナンス(ESG)といった非財務的な側面でも責任を果たすことが求められる。
事例: 投資銘柄としてのESG投資の普及は、企業が環境や社会に配慮した経営を行うことを促す可能性がある。また、短期的な利益だけでなく、長期的な視点を持って、持続可能な社会の実現や未来の技術に貢献する企業は、投資家や消費者の間で評価され、企業のブランドイメージも向上しやすい。株価や資金調達に大きな影響を与える場合もある。(参考:ESG投資とは)
(第3回へ続く)
参考
技術士制度とは
「科学技術に関する技術的専門知識と高等の応用能力及び豊富な実務経験を有し、公益を確保するため、高い技術者倫理を備えた優れた技術者」の育成を図るための、国による資格認定制度(文部科学省所管)である
技術士倫理綱領は、技術士が業務を遂行する上での行動規範を定めたもので、公益の優先、持続可能性の確保、技術士としての品位保持と資質向上の3点を最重要事項としている。