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現代社会における技術倫理~事例から見る倫理2:技術倫理と持続可能な社会 第3回
シリーズ: 技術倫理と持続可能な社会
概要: 技術は社会のあらゆる側面に影響を与える。だが、技術の進歩は常に人々に恩恵のみをもたらすとは限らない。倫理的な視点を欠いた技術の利用は、環境破壊、格差の拡大、人権侵害など、深刻な問題を引き起こしうる。本シリーズでは、技術倫理の重要性を改めて確認し、持続可能な社会を築くための道筋を探る。願わくは、技術を活用するすべての人々にとって、倫理的な思考を深め、より良い未来を創造するためのヒントの一つとなるように。
(第2回からの続き)
5.5 技術革新と新たな倫理課題
AI、バイオテクノロジー、遺伝子編集技術など、新たな技術革新は、従来の倫理観では対応できない新たな倫理課題を生み出している。技術者は、これらの技術が社会に与える影響を十分に考慮し、倫理的な問題に適切に対処する責任がある。
事例: 特に生成AIの差別的なアウトプットの管理は、技術倫理の観点でも重要な課題である。学習データに偏りがあると、特定の属性を持つ人々に対して不利となる結果を出力する場合がある。技術者は、AIの開発や学習の段階から倫理的な配慮を行い、公平性を確保するための対策を講じる責任がある。他にも、自動化のために、AIの自律的な判断を活用するようになった場合の責任の所在など、議論すべき課題は山積している。これらの問題は、AI技術全体の信頼性にも影響を与えている。(参考1:アルゴリズム・バイアスとは)(参考2:自動運転の事故責任、誰が負う?)
5.6 過去の教訓と現在の災禍
過去の悲惨な出来事から得られた教訓は、現代社会においても重要な意味を持つ。技術者は、過去の教訓を学び、同じ過ちを繰り返さないように努める責任がある。また、現在の災禍は瞬く間に世界中に配信され、過去の教訓と結びつけられることで、人々の倫理観に大きな影響を与える。
事例: 各地で今も発生している戦争や紛争は、技術が倫理的に利用されない場合にどのような悲劇をもたらすかを示している。また、原子力発電の開発と利用は、その恩恵とリスクの両面を考慮する必要がある。一方、ある地域で発生した災害のニュースは、過去の同様の災害の教訓と結びつけられ、世界中で防災意識を高めるきっかけにもなる。人道支援のネットワークが世界規模で、しかも短期間に構築されやすいのも、現代の特徴と言える。(参考:人道支援NPO法人 REALs, REALs緊急支援の例)
まとめ(第2回+第3回)
第5章では、現代社会における具体的な事例を通して、技術倫理の重要性を掘り下げてきた。グローバル化、情報化、環境問題、技術革新など、様々な要因から、技術倫理への要求が高まっている。
では、私たちはどのように倫理的な判断を下し、行動していくべきだろうか。この問いに対する答えはひとつではない。ただ、常に「自分自身や他者への深い敬意と幸福を願う気持ち」を心に留め、技術士ならば技術士倫理綱領に立ち返り、過去の教訓等からも学び続けることこそが、より良い未来を拓くためにはタイセツなことだ。
この言葉は、対話の重要性とともに、技術倫理の重要性についても示唆している。技術は、「自分自身や他者への深い敬意と幸福を願う気持ち」の具現化に貢献するためにこそ、その力を発揮すべきだと思う。
私たちは、技術の進歩と倫理の調和を図りながら、持続可能な社会を築いていく責任がある。技術倫理は、そのための重要な基盤のひとつ。アインシュタインの言葉を胸に、より良い未来を創造していきたい。
次回は、第1回で述べたオブリージュについて掘り下げていく。技術を研究開発する人と行使する人が限りなく近づいている現代。日常的に倫理なんて意識しながら過ごすなんて、難しいのが事実。気づけばオブリージュできている技術の使い方について、テック・オブリージュやエンジニアリングオブリージュの概念を通して考察してみたい。
(第4回へ続く)
参考
技術士制度とは
「科学技術に関する技術的専門知識と高等の応用能力及び豊富な実務経験を有し、公益を確保するため、高い技術者倫理を備えた優れた技術者」の育成を図るための、国による資格認定制度(文部科学省所管)である
技術士倫理綱領は、技術士が業務を遂行する上での行動規範を定めたもので、公益の優先、持続可能性の確保、技術士としての品位保持と資質向上の3点を最重要事項としている。