空港にて、お母さんの玉子焼き。
「お母さん、いつか手を繋いで、遊園地でデートしようよ」
ちっともうまく行かない日常の1ページ、栞を挟むように約束した思い出。
子どもの頃の夢。本当は両親にナイアガラ旅行をプレゼントするつもりだった。
わたしの漫画が売れたら錦を飾って…。そんなことを言ってたらきっと何も叶わないってある日気づいて福岡行国内線に飛び乗った。
(こんなの親孝行になるのか?)
まだ何も成し遂げてないままの帰郷。母の手を取り、うらぶれたような遊園地へ。
ところが…。
「あんた乗物に酔った?」
心配して背中をさする母。結局殆ど回れなかった。
空港で母のお弁当を食べた。
(全然うまくやれなかった…)
涙が零れた。
母は後ろに並んでいた子どもたちに笑顔でコースターの先頭を譲り、観覧車で出発するカップルに一杯手を振り、わたしのヘタな運転のゴーカートに大はしゃぎしてくれた。
甘い玉子焼きの味が心を撫でる。柔らかな、春の催花雨のように。大丈夫だよって。