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零細起業の経営実務(11)『人件費』を考える

起業したい、するかもしれない研究者さんのために、リーゾの経験談をお伝えしています。今回は、個人事業や、リーゾのような小さな会社にとって、
人件費は何を意味するのか?を考えてみます。

開業当初のある日のこと。自社のショボショボな損益計算書をじっと眺めていて、気づいてしまいました。
・・・費用のかなりの部分が『人件費=自分の給料』であることに!

安い家賃の物件に入居し、試薬や消耗品も節約して、固定費もランニングコストもかなり抑えていたため、スズメの涙程度の給料でも相対的に大きな金額になっていたのです。
つまり、給料をゼロにすれば、損益は劇的に改善できることに気づきました。

よく考えれば当たり前のことなんですが、そのときは背中に水をかけられたような思いがして、「自分がもらう給料のせいで会社が赤字になっている!」と、罪悪感を感じたのを覚えています。

似たようなこととして、会社で何かが必要になったとき、個人で買って会社に寄付するようなことをしてました。そうすれば、会社の費用が減って、利益が増え(損失が減り)ますから。涙ぐましい努力です。
(ひとりで会社をやっていて、あまり儲かってない場合、一度は考えることではないか?と思いますがどうでしょうか。私だけかな?)

でも、よく考えると、それを買うためのお金は、もともと会社からもらった給料です。なんかヘンだなあ、努力の方向が間違ってない?と、違和感を感じていました。

それから月日が経って、リーゾの商品はいろいろ増えました。核酸抽出試薬や受託解析だけでなく、交配袋や美食同玄米のように、人件費がかかるため原価率が高くなりがちな商品が増えている状態を見て、「利益率が高いものに絞るべき」と言う方もいます。

試薬と受託実験だけなら、私だけでもなんとか回せます。研究業界の商品は単価が高く、ほとんど知的財産を売る商売ですから、あまり仕入れは要らないし、その分野に習熟していて機器も揃っていれば、労力もそれほどかかりません。
そういう商売ができるのに、なぜ労力がかかる新商品や新サービスを増やしちゃうのか、不思議に思われるようです。

確かにそうかもしれません。

でも、ひとり→ふたり→再びひとり、のさびしい時期を経て、ようやくにぎやかに仕事ができるようになったのに(仕事場に仲間がいるだけでどれだけ楽しく仕事ができることか!)、またあの状態に戻るのは考えるだけでぞっとします。スタッフも失業したくないでしょうし、何より研究者さんやお客様が困るでしょう。
「リーゾさん」の経営効率のために、みんなが困っていいわけがないです。

それでも経営者かって、バカにされそうで言えないけど、そもそも人件費って、ほんとうにコスト=悪、なんだろうか?

と、思っていたところに、伊那食品工業という会社の社長さんが書いた「年輪経営」の本と出会いました。
曰く、『人件費は、コストではなく、会社の目的そのものだ』。

こんどは、背中に水じゃなく、頭をがーんとなぐられたような気がしました。

会社を経営して、いろいろなものを仕入れて加工して販売して売上を上げる。
そのなかから働いている人に給料を払う。それこそが、会社の目的なんだというんです。上場企業じゃないんだから、株主のための利益なんか残さなくてぜんぜん構わなくて、稼いだお金は、社員の幸福のために使うのが筋だと言うんです。

やっぱり、自分に払っていたわずかな給料に罪悪感を感じる必要はなかったし、ポケットマネーで消耗品を買う必要もなかったみたいです。人件費がかかる事業だって、赤字にならず、社員が幸せに働ける限りは、雇用を生める素晴らしいビジネスだと言えるわけです。

・・・が、そんなことを言っていられるのはもちろん給料が払えるだけの売上があればこそ。

売上は、『お客様満足』の後ろにゆっくりついてくるもの。
結局はこれまでどおり、目先の利益を追わずに、お客様満足に集中していけばよい・・・と、一周回って原点に返ってきた感じです。

というわけで、これからもスタッフ一同、がんばります。

※文中でご紹介した本はこちらです
『リストラなしの「年輪経営」』 塚越寛 著 光文社

(2015年12月2日配信のすいすい通信より)

「すいすい通信」
https://rizo.co.jp/merumaga.html

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