零細起業の経営実務(12)零細にぴったり「範囲の経済」
起業したい、するかもしれない研究者さんのために、リーゾの経験談をお伝えしています。今回は、「範囲の経済」についてです。
「範囲の経済」という言葉をご存知でしょうか。goo辞書によれば、「企業が複数の事業活動を持つことにより、より経済的な事業運営が可能になること」とあります。
事業を何もないところから立ち上げるのは、金銭も、労力も、時間もかかり、かなり大変なこと。でも、ひとつ目の事業を立ち上げるのに用意したものを有効活用して、2つ目、3つ目の事業を行うなら、3つ別々に立ち上げるよりもずっと効率的です。
コーヒーショップで、コーヒーと一緒に食べてもらうサンドイッチやドーナツを売れば、店舗の維持や人件費はそのままに、売上を増やすことができますが、例えばそんな感じです。分かりやすく言い換えれば「ついでビジネス」です。
この言葉を知ったとき、「リーゾでもやってる!」と笑ってしまいました。貧しい設備から、少しでもたくさんの利益を出すにはどうしたらいいかと頭をひねって、自然とやってきたことでしたが、そんな経済用語があったんですね。
例えば、リーゾではイネのDNAマーカー育種をやりたくて、最低限、DNAの抽出とPCRと電気泳動ができる設備を揃えました。
PCRと電気泳動装置を使ってできるビジネスとして考えたのが、「すにっぷすいすい(アレル特異的PCRプライマー作成サービス)」。
さらに、DNA検査もできるので、他ではやっていない「イグサDNA鑑定サービス」「カンキツグリーニング病DNA検査」も始めました。
DNAの抽出のための試薬や設備とノウハウを使って、「核酸抽出試薬シリーズ」を開発し、さらに「難しい材料からの抽出法検討サービス」が生まれました。また、これらの実験設備は、「実験補助者育成講座のスクーリング」にも活用しています。
試薬シリーズをパッキングするのに購入したポリシーラーがあったので、「交配袋」の開発がスムーズにできました。また、イネの育成用に立ち上げた温室プールは、ボウフラ対策も兼ねて、「メダカ&ミニアクアリウム事業」に利用しています。
販路についても「範囲の経済」しています。
農産物直売所「えるふ農国」には当初、お米だけ置いていましたが、スタッフの皆さんとの雑談から「メダカ&ミニアクアリウム」も置くことになりました。
納品や売り場管理の手間を増やさずに、売上が増えることになります。
同様に、試薬を宣伝する目的で出品し始めたアマゾンには、ついでに交配袋と美食同玄米も(一時期は、小冊子も)出品するようにしました。品目が増えても、月間手数料は同じなので、使ったほうがお得です。
ビジネスだけでなく、「人」も範囲の経済してます。リーゾのスタッフは、それぞれ担当する仕事がゆる〜くしか決まっておらず、全員が全部の仕事を処理できるように情報共有に努めています。日によって出社するメンバーが違っても、これなら仕事が回ります。もちろん私自身も、初めての仕事は必ず自分で経験するようにしています。
さらにさらに、リーゾのような狭小オフィスでは「空間」も範囲の経済せざるを得ません。リーゾの場合、万能の作業スペースがあり、そこは交配袋工房から商品梱包、食事、来客応対と、いろいろな目的で使い倒しています。狭い空間で常時4名が働くために、モノの収納も人の動線もこれ以上ないくらい工夫しています。売上を『単位面積あたり』で考えたら、リーゾはかなりいい線行ってるはずです。
結局、『さまざまな制約がある中で、いかに高い付加価値を生み出せるか』。
企業だけでなく、家庭でも、研究室でも、応用可能な考え方だと思います。
ところで、範囲の経済は、英語ではEconomy of scope。scopeには確かに範囲という意味もありますが、機会、視点という意味もあり、どっちかというと「機会の経済」あるいは「視点の経済」の方がしっくりくるように思うのですが・・・どうでしょうか(どっちでもいいですね)。
※「範囲の経済」という言葉と出会った本を紹介したブログ記事です。
(2016年1月6日配信のすいすい通信より)
「すいすい通信」
https://rizo.co.jp/merumaga.html