零細起業の経営実務(14)人を雇う
起業を考える研究者さんへ、リーゾの経験をお伝えしています。今回は、
ラボのボスにも大いに関係がある、「人の雇い方」についてのお話です。
起業とは、原則としてひとりで始める孤独な活動です。それを踏まえた上で、でも2人以上の方が大きな力を出せることを実感しています。それも足し算じゃなく、掛け算的に力が増えていくと感じています。
でもきっとそれは、自慢じゃないですが、リーゾの人材採用がこれまでのところ極めてうまくいっているから。人材採用に失敗してしまうと、マイナスの掛け算になってしまう危険もあることは、ラボのボスの皆さんも経験済みでしょう。リーゾに実験補助者採用がらみのご相談が多いことからもわかります。
といっても、私自身、最初は人を選んで雇用することにかなりの恐怖を感じていたんです。それなのになぜリーゾの人材採用が、今のところ成功しているのか、振り返って考えてみました。
リーゾで初めて社員を採用したのは、創業3年目の秋のこと。それまでは創業パートナーの女性研究者(当時取締役)とふたりでやっていましたが、彼女が闘病のため休業することになり、この先どうするかを考える必要が生じました。
そのときに考えた選択肢は、
1)リーゾを廃業して、再就職するか専業主婦になるかする
2)業務を縮小して、ひとりでやれる範囲で続ける
3)代わりに一緒にやってくれる人を探す
でした。
もちろん3)が理想ですが、彼女のように超優秀かつ薄給でも働いてくれる女性研究者がそう簡単に見つかるわけがありません。1)はやっぱりイヤですし、現実的には2)です。
でも、2)と3)の中間くらいのところでなんとかならないかな、求人を出してみようかなと思いました。
とはいえ、立派な研究機関からの募集が多い土地柄で、どこの馬の骨ともわからないリーゾに魅力を感じてもらう求人広告を作るのはハードル高すぎ。どう説明しても怪しくて、優秀な人には敬遠されそうです。さらに、こちらで求めたい条件もいろいろありすぎて(主婦で、薄給でもよくて、何でも面白がってくれて、できれば理系で研究経験のある人で、でもそうじゃない人にも応募して欲しい等々)、数行の広告にまとめるのは至難の業でした。
仮に広告ができて、応募者があったとして、次の難関は選考です。
履歴書や採用面接では、人は必ず「装う」もの。本当のところどんなひとなのか、価値観や相性が合うのかわかりません。失礼ながら、うっかりブラックな人を雇ってしまえば、小さな会社にとっては大げさでなく致命傷になります。
そんなこんなで暗礁に乗り上げてましたが、ちょうどそのタイミングで、主婦向けの「実験補助セミナー」を開催することになりました。もともとは、優秀な主婦を発掘して研究者さんに紹介するのが目的のセミナーです。セミナーの参加者には、後日リーゾにて実験補助の個別講習と、履歴書のブラッシュアップ、模擬面接を無料で受けられるという特典をつけていました。
これを行うことで、構えることなく、普通の面接ならわからないような人柄、価値観、家族構成、生活習慣、その他いろいろ、いわゆる「人となり」をつかむことができます。
また、入居しているビルの外観が廃墟っぽいこと、でも治安は悪くないこと、それに実験設備の貧しさも隠さず見てもらっていることで、余計な説明や言い訳も不要になるというおまけもつきました。
その結果、リーゾでいいからちょっとだけ働いてみたい、という2名の方をスカウトして、まずは週1回ずつ来ていただく形で採用する運びになりました(もちろん「すぐに研究所に就職してしっかり働きたい」という方は、適性や人柄を見た上で、研究者さんに推薦させていただきました)。ひとりは、残念ながら転居のためその後退職しましたが、もうひとりは今もベテランスタッフとして活躍してくれています。
それでも、「よかったらリーゾで働きませんか?」と言う瞬間は、やんわり断られるのを覚悟で、とてもドキドキしたのを覚えています。
その後も、メンバーを増やす際には、セミナーや講習、その他のつながりで個人的に話したことがある人ばかりを採用して、今に至っています。
ちなみに、採用基準はただひとつ「相思相愛かどうか」です。つまりはリーゾで働いて幸せそうかどうか、私や他のスタッフと波長が合うかどうかです。
こんな方法は、リーゾにしかできないことじゃないかと思われそうですが、やりようで応用は可能です。
この方法のポイントは、
(1)採用したいカテゴリの人と多く出会ったうえで
(2)応募/選考という関係ではない段階で、構えずにお互いについて知り合
う、というところです。
例えば、リーゾは子育て中の主婦に来て欲しかったので、実験補助セミナーがぴったりだったように、採用したい人材に求めるスキルについて、スキルアップセミナーを開いてはどうでしょうか。パソコン、機械の使い方、営業法、英文メールなど、いろいろあります。スキルアップしたい人は就業意識も高いものです。無料でもいいのですが、あえて受講料を少額でも取るようにすれば、就業意識の高い人をさらに厳選できます。
研究機関であれば、一般公開などのときに、主婦を対象にした「実験補助体験プログラム」を設けるなんてどうでしょうか。その参加者リストは、実験補助者を探す研究者さんにとって垂涎のお宝になりそうですよね。
相思相愛採用はどの職場にもあてはまるはず。リーゾの編み出した裏ワザが、少しでも人材採用のヒントになればうれしいです。
(2016年3月2日配信 のすいすい通信より)
「すいすい通信」
https://rizo.co.jp/merumaga.html