零細起業の経営実務(39)同時性の解消
起業を志す研究者のみなさんへ、リーゾの経験をお伝えするシリーズ。今回は、「同時性の解消」について、身近な題材で考察してみたいと思います。
「同時性」とは、ある取引を行うにあたり、売り手と買い手が「同時に」「同じ場所に」いる必要があることを言います。これを解消することができれば、ビジネスの規模が飛躍的に拡大すると言われています。
同時性が必須のビジネスとしては、たとえばラーメン屋さんがありますよね。客は開店時間の間に来店し、店主が調理したものをその場で味わってお金をはらう。これを、好きなときに好きな場所で食べられるようにできれば、「同時性解消」です。
ちなみにリーゾのお向かい1階にある中華ラーメン「イチカワ」さん、11時半の開店なのに9時前から行列ができて、2時間以上待ってる人がいる超繁盛店なんですが、実はチルドタイプのイチカワラーメンがあって、スーパーで売ってるんです。しっかり同時性解消してらっしゃいます。
考えてみれば、お買い物といえば昔はお店に出向いて商品を選び、多少なりとも店主と会話して買うのが普通でしたが、今は通信販売が当たり前。好きなときに好きな場所で買い物ができます。宅配ボックスがあれば、商品が届くときに在宅する必要もなし。同時性解消でどんどん便利になるにつれ、ビジネスの規模も拡大していきます。
教育もそう。先生と生徒が同時に教室にいる必要はなく、先生はスタジオで授業をして教室に放映すればよい。さらに発展して、講義は録画して、生徒は都合の良い時間帯にパソコンで再生して勉強すればよくなりました(さすがに義務教育はまだですが、塾や予備校の多くはそのシステムです)。
医療は無理かと思いきや、ピロリ菌などは検査キットを購入して郵送で検査でき、退治に必要な薬も通販で届くと聞きました。遠隔操作の手術ロボットを使えば、遠方にいても名医に手術を頼めるし、名医の方も移動せずにたくさんの手術をこなせます。
つまり、どんなビジネスであれ、同時性を解消することができれば、取引の数を増加させることができ、コストを抑えながら事業の規模を拡大できる、というわけです。
さて、こんなことを知ると、使ってみたくなるのがリーゾです。試薬はもともと通販だし、受託サービスもほぼ同様。同時性はすでに解消されてます。同時性解消できそうな商売はないかしら、と考えたら、ありました!「めだかすくい」です!!
めだかすくいは、日時限定のイベントで、その日のその時間帯にイベント会場に行かないと参加できません。やりたいけど、その時間帯は予定が・・・というお客様も相当数いるはず。同時性が解消できれば、そんなお客様にも遊んでもらえるし、人件費をほぼゼロにできるので、ビジネスとして成立するのでは?と考えました。
同時性解消のために、解決すべき問題点は2つありました。
(1)めだかがたくさんいると水がすぐに悪くなり、交換が面倒
(2)人がいなくても、サービスがなりたつ「しくみ」が必要
(1)については、ミニアクアリウムの原理を応用すれば、自然の力で水質を維持できそうです。
(2)については、直売所のレジでポイと袋を受け取り、すくえためだかを自分で袋に入れてもらえばよさそうです。
ということで6月の1ヶ月間、農産物直売所「えるふ農国」で試験提供してみました。
やってみないとわからないことはあるもので、当初は、イベント時と同様に、
『すくえてもすくえなくても2匹持ち帰り』
というルールにしました。が、いろいろ問題が生じ、途中から、
『すくえた分は全て持ち帰れるが、すくえなかったら粗品を進呈』
と変更しました(この方ががんばる気になりませんか?)。
1ヶ月間の試験提供の結果、参加人数はのべ153名。宣伝不足もあり開始後しばらくは低調で、3週目から急速に伸びたことを考えるとまずまずです。イベント時には1日で達成できる人数ではありますが、ときどきメンテナンスに行くのみで、全営業時間帯にサービスを提供できたことで、同時性解消の試みとしては成功したと言えそうです。
気になる客層についてお店の人に聞いたところ、想定していた子供連れ以外にも、定期的に遊びにこられる老夫婦、ひとりで遊ぶ仕事帰りらしきワイシャツ姿の紳士、買い物のついでに遊んでいくご婦人たちなど、大人が楽しめる場にもなっていることがわかりました。
めだか池の状態は1ヶ月経っても良好で、水は透き通り、コケも生えていません(水草は伸びすぎたので1度だけトリミング)。
ということで、店長さんより許可をいただき、セルフサービスめだかすくい、『夏休み終了まで延長!』となりました。酷暑の中では、想定外の事態もあるかもしれません。めだかたちの命を預かり、新しい飼い主さんにつなぐ責任を肝に銘じながら、終了までしっかり提供していきたいと思っています。続報、乞うご期待です。
※同時性の解消については、下記の書籍が参考になります。
松岡真宏・山手剛人 著
『宅配がなくなる日 同時性解消の社会論』
(日本経済新聞出版社)
(2018年7月4日配信のすいすい通信より)
「すいすい通信」
https://rizo.co.jp/merumaga.html