零細起業の経営実務(30)起業初期のお金の使い方
起業を志す研究者さんに、リーゾの経験をお伝えするシリーズ。
今回は、特に起業初期の、お金の使い方についてです。
研究者さん、特に、定年退職後のセカンドキャリアとして起業しようと考える方はこれからどんどん増えてくると思います。
定年退職といえば退職金。貧乏起業だったリーゾと違い、お金がたくさんある状態でのスタートになります。ところが、お金はたくさんあるに越したことはない、とは一概にいえないのが起業の難しいところで、お金があるとかえって危ないこともあります。
底の方に小さな穴があいた樽を想像してみてください。これに水を入れた場合、水が少なければちょろちょろとしか出ませんが、たくさん入れたら勢いよく出ますよね。
お金の出て行き方も、これによく似ていると思います。
お金が勢いよく出て行く原因の大部分は、人件費と、オフィス家賃、光熱費、税理士、社労士の顧問料などの固定費です。
起業する以上、立派なオフィスが必要、事務員が必要、税理士が必要、と思いがちです。もちろんその方がいいに決まってますが、さらに自分の給料も払うと、月100万はすぐに行ってしまいます。
このペースでお金が減り続ける一方、売上が計画通りに伸びなかったら・・・?
私なら恐ろしくてとてもできません。
せっかく起業という未知の世界に挑戦するのですから、いきなり人に頼らずに、まずは自力でできないか試してみてはどうでしょう?
研究者としてはベテランでも、経営は初心者なのですから、知らなくても恥ずかしくないし、役所はどこも素人に親切です。
また、世間知らずのまま大金を持って起業し、その上プライドが高いと最悪です。そういう人間からあの手この手でお金を掠め取っていく商売の人がいっぱいいます。
実際にあった例を挙げます。
ビジネス雑誌風の誌名を名乗り、『取材させていただきたいのですが』と電話がかかってくれば、新米経営者は宣伝のチャンスと喜んでしまいますよね。
ところがよく話を聞くと、取材に来るのは芸能人(かつて結構売れていた人)で、その方のギャラも含めかなりの金額を請求される、というカラクリになっています。
リーゾの場合、起業以来、10回以上この手の電話がありましたが、実は前の職場がひっかかっており、おかげで初回から回避できました。
もちろん、雑誌はちゃんと作られて、病院のロビーなどに置かれるようですが、宣伝効果はかなり疑問。取材申込の電話には、みみっちいようですが「それってこちらがお金を払う話ではないですか?」
と確認しましょう。
同様に、新聞社(と見せかけて広告代理店)からの取材申込(っぽいもの)も要注意です。「○○新聞の記事枠が急に空いてしまい困っている。急いで取材させてもらえないか」と、即決を迫る勢いで電話してきます。
よくよく聞くと、確かに大手の新聞だけど、ごく限られた地域にのみ配布される地方版の、しかも記事の体裁をした広告とわかり、お断りしました。
その後、類似の電話が複数回あったことから、広告営業の手口のひとつではないか?と疑っています。
ところで、もしも退職金や相続遺産などのまとまったお金を起業に使いたいとしたら(うらやましい!)、どうしたらよいと思いますか?
ベテラン経営者さんに聞けば、いろいろあるとは思うのですが、私のお勧めは、「銀行に預ける」です。個人の口座でいいです。当たり前すぎてがっかりでしょうか。もちろん続きがあります。
預けた上で、同じ銀行に「会社として」融資を申し込むんです。そうすると、
『お宅に預けてるお金をおろして、会社に貸してもいいんだけどね』
と、言わなくても、銀行には伝わるので、格段に貸してもらいやすくなるはずです。
当然のことながら、お金があるときの借金はものすごく簡単に、しかも有利な条件でできます。
まとまったお金があるなら、それは使わずにおいて、すぐに返せる金額を借りて手元資金にしておき、事業のチャンス到来時に有効に使うのが賢いと思います。
ちなみにつくば市の場合、創業1年経過後は「自治金融」を利用でき、ほぼ無利子で融資を受けることができます。銀行に相談すれば喜んで仲介してくれます。
お金は会社の血液ですから、経営が安定するまで、「とにかく資金を枯渇させないこと」が重要です。
これを守ってさえいれば、いつかチャンスが来る日まで、力を蓄えつつ生き延びていられます。
『起業は、かっこ悪く始めたやつが成功する』と言います。研究者って、もともと変人と思われてるんですから(失礼!)、逆手にとってわざとかっこ悪く始め、日々楽しく成功を目指すのが賢いのでは?と思います。
(2017年9月6日配信 のすいすい通信より)
「すいすい通信」
https://rizo.co.jp/merumaga.html