なんとなく十二ヶ月(一月~六月)

1ヶ月にひとつ詩をつくろう!と思い立って、2016年1月から12月までにかいた12の詩を、少し手直しして半年ごとにまとめました。1カ月ごとに粋なレビューをくださる方がいて、それが楽しみのひとつでもありました。


苺 一月

わかってる 
たぶん 食べれば酸っぱいこと
見た目とってもかわいい子
でも 中身はそれほどでも
なかなかの見掛け倒し
それも かなり上手の

わかってる 
わかってるつもりだけど


かたち
香り
他がかすむほどの 憎らしいくらいの完璧さ

でも まあいいか しょうがない

ちょっと憐れな男のように
たまには騙されてあげる

梅 二月

正直すっかり忘れていた あなたのこと
冷たい空に 指を伸ばしたまま
ただひたすらに 黙りこくっていたから

でも ある日現れた小さなつぼみ

ああごめんなさい お元気でしたか
私が ああだこうだ言っている間も
じっとこの時を待っていたんですね
なんていじらしいこと
自分の無駄に多い言葉を恥じます

花 開いても
奥ゆかしいあなたのことですから
研ぎ澄まさないとわからないほどのかおりで
やんわりと
二月の空気を 温めるのでしょう

静かに
静かに

言い訳 三月

泣いてるんじゃない
目が赤いけど
腫れているけど

悲しいんじゃない
鼻声だけど
前向きになれないけど

春なのに
春なので

飛んでる花粉のせいにして
なんて都合のいい季節

わたしはわるくないんだから
言い訳ばかりの三月だから


雪柳 四月

なまあたたかい風が吹いて 
どきり、とする
ゆきやなぎが狂おしく揺れるので
どきり、とする

小さき白き細胞
先端まで埋め尽くして
風になぶられ 煽られ求めて拒んで
意思をまとった あれは生き物

胸の奥が どきり、と鳴る

「おいでおいで」 か
「来ることなかれ」 か
迷っている間に 春は行く

なまあたたかい風が吹いて
狂おしく揺さぶられて
内なる生き物が蠢いて 

この身の熱も きりきりと上がる

青い実 六月

喉が渇く
あの青い実を見上げると

食べてはいけない
あんなに綺麗な実だけれど
食べてはいけない

葉の陰で 光を集める淡い産毛
風になぞられる みどりいろの結実

食べてはいけない
とてもおいしそうだけれど
そのままでは 食べてはいけない

色だけで それは香る
梅雨の手前の青いひととき
凛としながら恥じらう 尊い結実

知ることのできない果肉の舌触りを 思えば思うほど
喉が渇いてどうしようもない
五月の真昼

蛍 六月

降りてくる群青の夜
寄り添う湿り気
橋の上
雪駄 擦る音
黄色い菖蒲はもう枯れた
浮かびあがる どくだみの白

「あ」と気づけば 無駄話は終わり

儚くもない 短くもない
ただただ それは光るだけ
ただただ 飛んで
ふうわり 指にとまったりして

偶然向かい合った 二つのいのち

お互い 
大きくもなく
小さくもなく
強くなったり
弱くなったりしながら

光っているだけみたいよ

それだけで 十分みたいよ

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