オドントグロッサムの種を植える 【短編小説】
イマナニガオコッテイルノカワカラナカッタガアタマガイタクテナキダシタクナッテルノガワカッタ
時は少し遡る。
少年は花屋で働いていた。叔母の知り合いが営む花屋で簡単なお手伝いをしていた。
少年は素直な子だった。というよりも感情を隠しなんてことが出来ない子だったのだ、でも取り立てて大きな問題はなかった花屋で働いる仲間たちが優しく自分のことを助けてくれるからと少年は思っていた。
少年は28年生きた人生で悪いことなんて一つも起こらなかったと思っている。
むしろ周り迷惑をかけて申し訳ないと出来ることならもっとみんなの力になりたいと思っている。
少年の小学生の頃、少年は友達のランドセルをよく持っていた。数個ものランドセルを持つのは大変な面もあったが友達の笑みを見ているといいことをしている気分がしてむしろ心地良かった。だから友達には何か持ってるものはないとよく聞いていた。
中学生もそんなふうに生きていた。
中学を卒業してからこの花屋にはお世話になっている。長い間お世話になっているので毎日店長には感謝の思いがあった。
さてそんな少年ハレトが店長に頼まれてお花をあるところにとりに行ったのだがその途中でハレトは後頭部を棒状の何かで叩かれたのだ。意識を辛うじて保っていたがハレトに出来ることなんて何もなくハレトの記憶はそこで途絶えた。
目を開けると何処かの倉庫らしきところに閉じ込められていた。体は縄で縛りつけられているらしい、そこまで認識してとりあえず縄から逃れることにした。縛りかたが雑に体に回しただけだったので筋肉を収縮させ弛みを作りさらに体を動かして弛みを大きくする。そうして縄から脱け出してあたりを見渡した。
さて、どうするか
心の中でそう呟きとりあえず情報を整理することにする。まず何故自分が襲われたのかを考える。当てになるとはおもわないがハレトの記憶では誰かに恨みを買うようなことはなかった。そうなると何かに巻き込まれてこうなったということになる。それではここにいてはどうすることも出来ない。ふと店長に頼まれた仕事のことを思い出した。店長には迷惑をかけると思った。でもあまりにも帰ってこないハレトを心配して様子を見にいってくれた事態を分かってくれるだろうか、血痕が残っていたら何かあったか分かってくれるだろうし警察に連絡がいってるかもしれない。血痕が無かったら店長はどうするだろう何かあったのかなとは思うだろうが、警察には連絡しないかもしれない。
そういえば、あれから何時間が経っているのだろうか。
倉庫上部にある小さな小窓から光がさしているので夜にはなっていないという予測は出来るが正確な時間は分からない、でもおそらく経っていても数時間だろうとは思う。
倉庫の出口に向かって扉を動かしてみるがやはり扉は開かない。
さて、どうしようか
結論を先に述べると倉庫の小窓から脱出した。倉庫に置いてあるものを使って試行錯誤のうえでの脱出だった。
危機を脱するとふと、いつになったら私はハレトに戻るのだろう。
問題は解決しなくとも時間は誰もに平等に進むもので、つまりは悩んでいる時間はもったいないという話だ。
倉庫の外に出るとそこは見知らぬ場所だった。ハレトはあまり知らない場所に行くことがないので見知らぬ場所のほうが圧倒的に多いのだが、襲われた場所からどれくらい離れているのだろう。
サイフも無いし一応言うと携帯電話も持ってないのであまりにも離れていると帰るのが大変になってしまう。
とりあえずは倉庫のある場所から人が集まっていそうなところを目指すことにした。
数十分ほど歩き、人がいるところに着いたのでここが何処かを訊ねようとしてふと頭の中でストップがかかった。
私は怪しくないだろうか?とふと自分の中で思い立った。服装はだいぶ汚れているし頭は血が固まっているとはいえ大怪我だ。側からみると怪しさしかない格好かもしれない。
生まれてこの方人とまともに話ししたことがないのである。生まれてというのは間違った言い方かもしれないが、そんな事を逡巡していると、
「あなた何かお困りかしら。」
相手の方から声をかけられた。
「ここは何処ですかね?」
返事としては何個か段階を飛ばして質問をしてしまった気がするが言ってしまったものはどうしようもなく、相手は驚いたような表情をしたが質問に答えてくれた。
「ここは○○市よ。」
案の定その地名に対しては聞き覚えはなかった。それだけ聞いて去ろうとする気持ちになっていて事実体の向きは変わっていたが自分の住んでる市のところまでの道のりをこの人に聞けばいいことに気づいた。なんというかよくよく考えたら分かることなのだが準備が出来てない中話しかけられたのでおかしな事をしてしまった。
「AA市まではどうやったら行けますか?」
これまた突然の質問だったが答えてくれた。
「AA市まではABC線に乗れば行けるわ。」
なるほど、
そうしてまた用事が終わったとばかりに去ろうとしたがABC線がどこにあるのかを知らない。そしてこれまた唐突に質問をしてまた同じ流れでABC線の行き方を知った。そうしてまた去ろうと思うときにここはお礼をするべきだと思い
「いろいろと教えてくれてありがとうございました。」
と言って
ABC線まで向かった。
さてここまで来てまた問題が起こる。
サイフをもっていない。つまりお金がないのである。
電車には、お金がないと乗れない。
この事を思いつかなかったのは素晴らしく馬鹿げたことだが、私はこれまた馬鹿らしいことに線路沿いに沿って歩いて帰ることにした。
そっからの道筋を辿ると長いことになる。そのくせ特別なことなんて起こらない。ただただ道を歩くだけだ。
でもなんかそれが良かった。空はもう真っ暗になっていて人気のない道、変な気持ちになった。
それは恐怖なのかもしれないし、一種の気分の高揚による。躁状態なのかもしれない。
つまりは今まで感じたことのないひと言で表しきれない複雑な感情を私は歩きながら感じていた。
考えることの楽しさを私は生まれてはじめて感じている、それが嬉しいのである。
そうやってAA市まで近づいてくるとその嬉しさは消えてしまった。何かの感覚でその嬉しさが苦しみに変わる。何故変わったのかは分からない。多分言語化しきれない感覚的な部分で苦しみを感じている。
でも帰らなければならない。
店長には迷惑をかけてはいけないとこれまた直感的に思っている。
だから帰らなければ。
そんなことを思っている。車のヘッドライトが私を照らした。
赤色の光を見た。
そこからの記憶はない。
イツモトオナジマイニチガキタテンチョウサンニハオコラレタケドシンパイオカケタンダカラシカタナイアタママダイタイガオレワガンバンナキャイケナイノデマタオナジヒビオスゴスンダ
オレワシアワセダ
ここまで読んで頂きありがとうございました。
最後に補足を
この作品は"アルジャーノンに花束を"という本に影響を受けて書いた本です。
面白いと思っていただけたら"アルジャーノンに花束を"も読んだことない人は読んでいただけたら