家のプリンターが馬鹿だなぁという話

バカになってるのはプリンターなのか私なのか、それは私の知ったことではない。

プリンターがバカになってるなぁ、というだけの話。特に展開もない。ただ単純に、私の家にあるプリンターがバカになっているなぁ、という、そういう感慨。オチも需要もない話。というか愚痴。


大体なんで印刷っていうのはこうもままならないんだろう。
中学、高校のときから自分のノートをコピーしたり、大学に入れば課題をプリントしたり、あるいは雑誌を作ったりすることもあったし、サークルでのビラ編集担当という仕事柄、プリンターと関わることは多かった。一人暮らしをする際も、思い切って大学の生協で売っている一番高いプリンターを購入した。大容量インクなので四年間インクを補充しなくても使えるしワイファイも使える(昨今では当たり前なのか)それなりの優れものだ。実家から東京に仕事をしに来た母親は、ついでに私の家に寄って、仕事で余った裏紙を大量に渡してくれた。ゴミではない。プレゼントとしてだ。

けれど、プリンターが有能であれバカであれ、使い手が無能である限り、その素晴らしさっていうのは生かされない。
プリントボタンを押しても全く違った形に印刷され、二面印刷や両面印刷などに手を出してしまえばもう紙の犠牲は2枚や3枚では済まされない。
とにかく私はプリンターを使う機会に恵まれていながら、プリンターに愛されない女だった。


大学にある輪転機なんてもっとひどい。
アイツは宿敵だ。サークル(合唱団)で使う譜面の印刷、ビラの印刷、幾度となく使用してやったけど、アイツとうまくいったことは今までの人生において一度もない。。
そもそもボタンが多すぎて最初の設定の仕方がよく分からないし、前の使用者さんのデータのコピーがそのまま出て来ることもある。
紙のサイズの設定すらよく分からない。
そして異様に印刷のスピードが早いから、一度ミスったままスタートボタンを押してしまうと、

「あ、ちょ、待っ、」

と間抜けな声を上げている隙に大量の紙がミスプリに消えてしまう。
私だけかとも思って自分を責めることもあるが、周りの話を聞いてみると案外輪転機を使う人ほぼ全員が輪転機に手こずり、輪転機に泣かされ、輪転機に金を吸い込まれているから、輪転機はやはり我々の宿敵なのだと思う。

まぁ、なんだ。
つまり、印刷ほど、単純な作業に見えて人を手こずらせるものってないな、とすら思うわけだ。

そして今日。久々にカラーで印刷したいものがあったので、家にあったプリンターを起動させ、印刷ボタンを押した。そして案の定、ぶち当たった。

インクが出ない。

どうやら赤色のインク(マゼンタだとかシアンだとか色々名前はあるらしいが、無駄な知識は持っていても猫に小判なので赤だの黄色だのという稚拙な語彙しか持ち得ていない)が出ないみたいで、白黒印刷は遂行されるのだが、カラー印刷になると突然ホラー画像がプリントアウトされる。

赤色なんてよりにもよって最も目立つ色だ。
この世界において、最も大事なことっていうのは大抵赤で描かれている。
信号の「止まれ」、救急マーク、日の丸の真ん中、ラブレターのハートマーク、なんだって赤色だ。赤は重要な色なのだ。

その赤が、出ない。

プリンターって割と定期的に使ってあげないと、こういう事態が発生する。
カラーコピーは久しぶりだったので、赤色が固まってしまったのだろう。
お前はめんどくさい恋人か、と思いながら仕方なくヘッドクリーニングをする。
だが、どれほどヘッドクリーニングをしたところで赤は出る気配がない。ずっと黄色と青と、黒と、その三色しか出てこない。
だいたいヘッドクリーニングってなんだ。私は赤色だけが出ないことに不満を覚えているのに、ヘッドクリーニングは全部の色を大量に消費してプリンターの調子を整えようとする。無駄しかない。高いインクが台無しではないか。まったくもって、馬鹿らしさ極まりない。

そもそも、最近確かに我が家のプリンターは調子が悪かった。
一ヶ月ほど前、白黒印刷を遂行中に私が途中で印刷内容のミスに気がついて中止ボタンを押すと、
「ギュルルルルルル」
とオヤジが腹を下したような音を立てて、印刷中の紙が中に巻き込まれて消えていった。手を突っ込んで紙を取り出すことにはそれほど苦心しなかったが、そういえばそれ以来変な音を立てることが多い気がする。

などということを思い出し、プリンターの調子が悪いなぁ、と愚痴を垂れながらこのノートを書き始めていたわけだが、書きながら何回かヘッドクリーニング繰り返してたら普通にインク出てきた。しかもすっかり諦めきって目的の印刷を赤抜きで終わらせちゃった直後に。ふっつうに赤色が鮮やかに発色している。一体なんのためにこの記事を書いてるんだろう。虚無だ。

仕方が無いので、さっきの完成した印刷品をボツにして、もう一回印刷し直すことに。

開始ボタンを押す。

どっどっどっどっどっ・・・・・

半分顔を出してきた紙を見ると、大丈夫だ。ちゃんと想定通りの色が鮮やかにプリントされている。

お、良かった、ちゃんと色出てるじゃーん、とひと安心。

と思いきや、残り半分の紙が出てきたところで絶望の淵に突き落とされる。

このプリンター、紙の半分の印刷がうまくいって安心しきったのか、そこそこ高級な紙の残り半分の一面に、黒いインクが飛び散っていた。大事な文字は見えない。さながらジャクソン・ポロックの絵画のようだ。もはやこれは現代アートなのではないかと言い聞かせながらその作品を呆然と見つめる。

ちくしょう。なんだって私はいつだってプリンターにこんな目に合わせられなきゃならないんだ。

今までのこのプリンターとの思い出が走馬灯のように蘇った。
また悲しみとも怒りともつかぬ感情が私を支配していた。

二年生の時に授業でZINE(小さな冊子)作ったときの絶望感は、未だに忘れられない。
とにかく冊子作りには超えなければいけない関門が大きすぎる。
「カラーコピー」「インクジェット紙プリント」「両面プリント」
そして最も忌むべき壁がアイツである。
「ナカトジインサツ」・・・・・・。

コンビニならボタン一つでプリント内容を中綴じ印刷用に並び替えてくれるのだが、家のプリンターだとそうは行かない。
どういう順番でプリントするのが正解なのか全く分からないまま印刷する順番を手動でぽちぽちと並び替え、
両面印刷機能がついていないプリンターなので、
自分で裏返して印刷する。
そして案の定並び替えをミスって絶望し、両面印刷では向きを間違えて上下がちぐはぐに印刷されているのを見て、おんおんと泣きながら高い紙を大量にゴミ箱に捨てる。
印刷を器用にこなす人なら、きっとこれらの嘆きを見ても何を言っているか分からないかもしれない。あるいは、こうすればいいんだよ、と優しい助言を投げかけてくれるかもしれない。
だが、違うのだ。
まず第一に、私はどうしようもなくバカである。
上も下も右も左もヒラメもカレイも鳩も雀も分からない、とんでもないバカである。
向きなんて考えることもなく、毎回毎回懲りもせず
「なんとなくこうやればいけるやろ〜」
と言いながら、片面印刷された紙をそのままプリンターにぶちこむ。
案の定、間違える。
そもそもが二分の一の確率なのにそれすらままならず、出てきた紙を裏返せば
あらら上下が逆だった、という事態が起こってしまうのだ。

そもそもプリントをするとき、私の心はいつだって穏やかではないのだ。
「今日の授業でこのレジュメを使うから、まぁ家出る十五分くらい前にプリントすれば間に合うかな」
などと自分の能力を高く見積もった時間計算をする。
そして印刷すると、案の定手こずって間違える。
いつの間にか迫る時間。
目の前には積まれたミスプリの山。
次第に心は落ち着きをなくし、またあらぬ方向に紙をぶち込んで、悲劇を繰り返す。気がつけば家を出る時間だ。あぁ、そんなことの繰り返し。


そんな大げさな、と笑うかもしれないが、以下の画像は
先ほど述べたZineを作ったときに、最終的に破棄した紙をまとめたものだ。


当時も半べそをかきながら(大学二年生、立派な大人だった)これを写真に収め、
全てをぐしゃぐしゃに丸めて、文字通り投げやりに、ゴミ箱に放り入れた。
冊子の印刷だ。それなりに高価な紙しか使っていない。
失われた金と時間に想いを馳せ、ゴミ袋の中を見つめながら、自嘲的な笑みを顔に浮かべた。


とはいえ、どう足掻いたってやはり印刷というのは私の生活とともにある。
どう生きていたってレジュメやレポートを印刷せねばならないときは来るし、家にプリンターがあるのにコンビニで十円だの五十円だのを払うのも癪に触る。
それに、コンビニプリントでは選べる紙の種類に限りがあるから、色紙やインクジェット紙に印刷したいときはやはり家のプリンターしか使えない。
だから私はこの憎いプリンターと生きていかねばならない。

何回か調整を加えたところで、やっとインクの乱れが収まった。


以上、プリンターが最近バカだなぁというだけの本当になんの需要もオチもない話だ。

このまま終わるのもあまりにも虚無なので(元から私の文章なんて虚無の具現化みたいなもので面白くもなんともないわけだが)とりあえずこれからプリンターを使う人々、とりわけ自分自身に対して何か有力なアドバイスも何点か残しておく。

プリンターは定期的に使ってあげないとイカレるからちゃんと使ってあげよう。
両面印刷や中綴じ印刷をするときは、自分の力を過信せず、ちゃんと裏紙を使って試し刷りをしよう。
印刷するときは時間に余裕を持ってしよう。

くらいってなもんだ。

そんでもってまぁ今回一番言いたいことといえば、これだ。


最近また人に渡す機会があったので今日また印刷しました。
もし欲しい人がいらっしゃったらお声かけください。

アディオス!


オ…オ金……欲シイ……ケテ……助ケテ……