リエット
子どもの旗振り当番を終えて、洗濯を干し、朝ごはんを食べる。今日は数日前に買ったリエットとフランスパン、白菜のコンソメスープ。
リエットは昔、姉が東京に住んでいたときにかわいい豚のイラストが書いてある陶器の入れ物に入ったものをお土産に買ってきたことがあった。可愛いくて、おしゃれなもの、美味しいものが易々手に入る東京にいて、弁護士、当時は銀座在住という私には壮麗すぎる姉。そんな姉は、東京から特急2時間ほどの距離にいた子育て奮闘中の私に、普段食べない華やかなものを食べさせてあげようという優しさで、デパートで美味しいものを見繕って買ってくれるのだった。
その豚さんが描かれたはリエットはパークハイアットのものだった。パークハイアット。その名前は知っている。行ったことはないが、東京に憧れを抱いていた私は「お!」っとなるセレブなホテル。北海道からの東京進出を目論むも、結局は大学の時住んでいた北関東で就職、バリキャリにもならず結婚、出産した私には縁がない場所。
ananの2、3ページ目に特集されるようなハイセンスな姉からのお土産にミーハーな私がいる一方で、当時慣れない子育てに忙殺されていた私には、姉がもってくる東京のソレは、違う世界を象徴したような憧れと劣等感を刺激する代物だった。豚肉がペーストになっていたことは覚えているけれど、その時のリエットの味は残念なことに、覚えていない。
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それから10年近くが経った最近、最寄りの高級スーパーに初めて立ち寄る機会があり、ふとリエットを目にした。ポップを見ると、そこそこに有名なものらしい。値段は七百円程度。自分の誕生日が近いことを口実に、普段見ることも、買うこともないリエットを一つ、カゴに入れた。
休みの日、スーパーで買った馴染みのバゲットに買ったリエットを乗せて頬張る。スパイスと豚の旨味、しっとりしながらも肉の食感も感じる。もう一口、もう一口。美味しい。
それから数日後の今日もまた、子どもを学校に送り出した後に一人、リエットをしみじみと味わっていた。その自分は、毎日子ども中心で何が何だかよくわからなかったかつての自分とは全く違っていた。
自分で美味しいリエットを買うことができる。そして、しみじみと味わう心の余裕ができた今、その味を噛み締めながら、劣等感をもった過去の自分がホロホロと崩れていくような気がした。