楽しかった保育園ハロウィン
子どもたちがお世話になっていた保育園は、ハロウィンの仮装にとにかく凝っていた。
お迎えのため園庭に入ると、
「あら、お父さんおかえりなさい!」
と声をかけてきた保育士は、ラグビー日本代表・五郎丸選手(女性・推定30代)だ。ハゲヅラをかぶっている。
「す、凄いっすね…」
不意打ちに驚く。同時に、普段の姿を完全に消し去るレベルの仮装に感心した。引きつった笑顔で、声にならない返事をするので精一杯だった。
教室から息子を連れてきたベテラン保育士(女性・推定50代)は、オバケのQ太郎だ。
Q太郎は顔を白塗りにしていながら、淡々としたいつもの口調でこう言う。
「じゃ、お父さん、写真を撮りますから」
息子をわたしの傍らに立たせると、背後にわらわらと仮装した保育士たちが集まってくる気配を感じた。
そしてパチリパチリと撮影が終わるや、保育士たちは次の園児の元へと散っていった。
数日後、写真を受け取った。
わたしの周りには、Q太郎はもちろん、口の端から血を流した雪の女王や、ハゲヅラの五郎丸選手があのポーズで写り込んでいた。
心霊写真である。
数年後、息子は年長になった。そのときのハロウィンは妻が迎えに行き、帰ってきてこう言った。
「担任の先生…凄かったわ」
保育士さんたちはもれなく笑いに走る傾向があるので、妻の「凄かった」が何を指しているのか想像を掻きたてる。いったい、どう凄かったのか。
「ピコ太郎だったよ」
息子の担任はまだ20代の若い女性保育士。果敢にも当時最新だった仮装ネタにチャレンジし、髪型からファッションまで完璧だったらしい。
見たい、見たい、そのピコ太郎を見たい。
ハロウィンはその1日限りで終わるから、もはやそのチャンスは無い。「アポーペン、アポーペン」と連呼してやまない息子の言動を頼りに、彼女のピコ太郎姿を想像するしかなかった。
…と、そんな楽しいハロウィン行事は、新型コロナウィルスが流行する前の話。
娘の通っていた2020年・2021年は、保育士さんの仮装の無いイベントだった。
あゝ、仮装に全力を尽くしていた頃のハロウィンが懐かしい。