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タライの水を手前から向こうへ

5月になった。
今日はカレンダーの裏に書いている。
つらつらつら。

急な暑さに身体がびっくりしている。
赤ちゃんは突然半袖になった。
ぷくぷくの手足が丸見えで可愛い。
いつもと違う散歩道を行くと鯉のぼりが泳いでた。
家にいることにも慣れてきた。
でもイライラしがちな日もある。
そんな自分をよしよしとなだめつつ夜が更ける。

夫がしてくれた話で好きなものをひとつ書いておく。

ある日私は、職場でとてもいいことがあった。ただのラッキーだったのだが、周囲の嫉妬心をばっちりと刺激したらしく、無言の「なんでお前だけ」コールにしんどくなってしまった。

私も逆の立場だったらちょっと妬ましく思ったかもしれない。気にならないなんていいながら心の奥底で暴れる嫉妬心を誰かにぶつけたこともある。私が無意識にケンカを売ってる?買ってる?気にしなければいいだけなんだろうけど…といろいろ考えたが出口は見つからなかった。

なので帰宅後、夫に聞いてみた。
「ねぇねぇ、私が誰かをうらやんだり妬んだりしなくなったら、他の人に嫉妬されても平気になるかな?」
すると彼は妙に自信ありげにこう言った。
「あっ、それは逆。」

「人はみんな多かれ少なかれ嫉妬する生き物だから、嫉妬する人、自分の不幸を願ってくる人を許すのが先。どうぞどうぞご自由に、と自分を相手に差し出す姿勢があってはじめて成長するし影響受けにくくなると思うよ。」

ほぅ。お主はそんなふうに考えておるのか。
と上から感心しているとさらにこう続けた。

「例えば大きなタライの中の水をさ、相手にどうぞと手前から向こうに押すとゆくゆくはこちらに戻ってくる流れになるじゃん。逆に、欲しい欲しいと手前に掻くと水は向こうにいってしまうしさ。地球がタライだったとして、おんなじことだと思うわけ。もちろん戻ってきて欲しいから差し出すわけでもないんだけど。」と。

あまりにも良い例えなので「誰かが言ってたの?」と聞いたら、自分で考えたそうだ。ごめんごめん。そういう良いとこあるって知ってるよ。

言われてみれば、自分が嫉妬されたくないから嫉妬をやめるというのは、自分本位というか嫉妬を抑えつけてるだけだ。おんなじ人間やってる時点で自分も他人も大して変わらないのに、つい忘れて責めてしまう。

まずは相手を許すこと。この許すが曲者で、一晩では語れないけれど、一気にマザーテレサ的な許しに向かうのではなく、今のところ私にとっての許しは許可するって感じだ。あなたはあなたでどうぞ、と。別に好きになるわけでも目をつぶるわけでもない。

忘れては思い出し、転んでは起き上がり、手前から向こうへ手を動かす。

今みたいな、まず自分のために水をすくうことから考えなければいけないときもある。本当に必要な分だけ丁寧にすくう。清らかな水にひんやりしたり潤ったり浄められたりして今日を暮らす。そーっと水面にさし入れた手が押しのけた水も、いつかはタライの向こうに行くはずだから。

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#夫婦 #幸せ #エッセイ

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相良 梨月
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