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浅生鴨さんインタビュー(創作のヒミツ編)
このインタビューは2018年8月25日に行ったものです。以前のアカウントを削除せざるえなかったので、お引っ越ししました。
浅生鴨さんが「皆が同じようにしている体験を、ちょっと歪んだレンズで拡大してみせた」という迷エッセイ集『どこでもない場所』。
これを読めば鴨さんのヒミツがわかるかも、わからないかも。迷子必至の浅生ワールドへ出発進行です。
浅生鴨(あそう かも)さんプロフィール
1971年 神戸市生まれ
作家、広告プランナー、ねこ社員の雇い主
今まで就いた職種は数知れず。
NHK時代はTwitter「@NHK_PR」1号として活躍。
著書に『どこでもない場所』『アグニオン』『猫たちの色メガネ』『伴走者』『だから僕は、ググらない。』などがある。
HP: http://www.asokamo.com
◇ 覚悟を決めて書いたエッセイ
--以前「エッセイって恥ずかしい。小説の方が自由に書けていい」とおっしゃっていましたね。
そうです。今回のエッセイも、最初は軽く断ったくらい。
*守屋さん(担当編集):じゃぁ書きますって言ってくださってから2ヶ月くらい音沙汰なかったです。
音沙汰なし(笑)ごめんごめん。嫌だってずっと思ってたんだ、そうだった。
--初のエッセイ集である本作では、鴨さん自身がかなり顔をのぞかせていました。
いやもう、書くんだったらごまかしてもしょうがないじゃないですか。嘘ついてもしょうがないので、書くなら覚悟を決めて書こうと。でも100%出し切ってるかと言うとそんなことはなくて、どこかでキレイゴトにはしてるんですよ。そこはズルいところかな。本当はあと1行書かなきゃいけないんだけど、その1行はまだちょっと書けないみたいな。
--なぜですか?
やっぱり、見栄じゃないですかね。なんだろう、そこまで人に自分の醜悪さを知られたくないっていうか。ギリギリここまではいけるなってところまでは書いてるけど。どうせみんな黒いから。みんなと同じくらいの黒さであればいいやっていう。
--みんな黒い、いいですね。人気もお金もあり迷いとは無縁が理想…みたいな風潮に疲れている人もいるのではと思います。
僕には、その、人気者で、良いこと言ってて、お金もあって、自己実現みたいな、これこれをやるべきだー!って言ってる人たちに対してのアンチテーゼみたいな気分ってちょっとあります。別にそうじゃない人はいっぱいいるし、僕も多分そうじゃないし。そういうことはいつも考えているから、今回のエッセイにも紛れ込んでるかな。
◆ 原稿を手書きする理由
--原稿は全て手書きだと聞きました。
はい。
--「手の書くスピードじゃないと頭の描くスピードに追いつかないから」とおっしゃっていましたが、書くのが速い方ですか?
自分が考えていることをそのまま書いてるだけだから(紙に書きながら)、ぐらいのスピード。(なめらかな筆記体でスルスル〜と書かれる鴨さん。特別速くはなかったです)
--書くよりもキーボードを打つのが速い人が増えていて、速ければ速いで言葉が考えから離れていきやすいのかなと思うこともあります。
今は口に出しながら書いたからあれなんだけど、僕が書いてるときって本当に何も考えていないんですよ。
--書いているとき、何も考えていない。
何も。何も考えず、頭の中で観ている映像、例えば鳥が横からピッと飛んできたり目の前で人が転んだりする映像を「鳥が飛んできた」「転んだ」って書いているだけ。それってパソコンの画面を見てたら書けない気がする。なんなら手も見てないから。見てるんだけど見てなくて、半分夢を観ているような状態。一番嫌いなのは変換で、パソコンだと文字を漢字に変換しなきゃいけないじゃないですか。どれにするか選ぶ作業が1個入ると、自分の中に走っている空想というか妄想が消えちゃうんですよね。
◇ 漢字選びはイメージ選び
--「山」と書いたら山という漢字の持っているイメージがあって、パソコンで入力すると「YAMA」になるからそれは違うともおっしゃってましたよね。
この言葉に漢字を使うかひらがなを使うかってことは、大事にしています。一般的にこれは漢字では書かないよねってものは、しょうがないからひらがなにすることも多いんだけど。今回だと「電話をかける」は “架ける” を使ったりしてて。
--『弁慶』(どこでもない場所のエッセイの1つ)ですよね。ホロリときました。
*守屋さん:泣けますよね。
「電話を架ける」みたいに、こういうのをポンと見た瞬間に、目から入ってくる情報で浮かぶイメージってありますよね。これがひらがなの「かける」だったらシーンが立たないんですよ。漢字にすると一瞬ひっかかってカットが止まるんで、印象が残るんです。
--希望の香りがしました。
日本語の面白いところは、文字がイメージを伴っているところですよね。英語だったらこれってできないんですよ、この遊びは。そういうのをちょっと混ぜてる気がします。
◆ みんなの頭のなかに絵をかきたい
--鴨さんが書く文章は映像のようで、全体的に細かいですよね。
僕が基本的に文芸っていうか文章でやっていることは、他人の頭の中に絵を描くことなんです。絵をそのまま人には伝えられないから、自分の観た絵を言葉にして、言葉を使って人の頭の中に絵を描くってことをやってるだけです。ほかの物書く人がどうなのかはわからないけれど、僕はとにかく自分が観たものをそのまんま書くっていうやり方。書くときに、カメラをどう向けてどこまでズームするかというのは結構考えているし、映像の編集と同じで色んなカットを挟んでリズムを作ることはやってる。僕が映画とかドラマが大好きで、ずっと観てるからだとは思うんだけど。
--なるほど。だから映像が浮かびやすいんですね。
描写が細かいのと、みんなあんまり気がついてないんだけど、時々音を混ぜてるんですよね。こんな音が聞こえた、みたいなのを。今回のエッセイはそんなに多く入れていないんですけど『伴走者』は音が大事だったんで結構入れました。案外、音とか匂いって文字にならないので、それをちゃんと文字にしておくことは意識しています。
◇ ズームするなら足を使え
--今日は、エッセイの『フィルム』に影響を受けて、あえて写ルンですで撮影することにしました。(室内をフラッシュなしで撮影したため、ものすごく薄暗い写真ばっかりなのです。ごめんなさい!)
僕は普通のアナログカメラを、カバンの中にいつも入れてる。
(カバンごそごそ)あれ??
--いつも入ってるって言って…
えぇっと… あった!
--年季入ってますね。
そうそう。1995年くらいから、ずっと使ってる。
-- 一眼レフのカメラかなと思って読んでました。
これですよ。覗いて押すだけ。これをいつでもポケットに入れていて、ことあるごとにガッ!と撮っています。撮る以外のことができない、なんにもできないカメラ。
--ズームはできますか?
ズームもできないです。ズームしたかったら自分が近づくしかない。変にズームするよりは「よし!これを撮ろう!」って心から思ってそこへ近づいていく方が、ちゃんと撮るんじゃないかなって思ってて。遠くからごまかして撮るよりは。ズームって卑怯な気がするんですよね。
--覗き見みたいだから?
覗くというか、ちょっとズルしてる気が。本当はそんな近くにいないくせに、近くにいるフリをしてるっていう。
--テレビのお仕事の時もですか?
テレビの時もです。もちろんズームは使うけれど、極力近くに行ってもらう。「足で撮れ!」と言っています。ズームってね、意味があるんですよ。ゆっくりズームインしてくと感情が強くなっていくんです、観てる側の。
例えば、僕が「はぁぁ!」って言ったときに少しズームすると、僕が「はぁぁ!」ってなった気持ちが観てる人には強く伝わるんです。逆にズームバックして遠くなっていくと、客観的になっていく。観てる人が余計なことをいっぱい考えられるようになるので、物を考えさせたいときにはズームバックするんですよね。あと、状況を知らせたいときとか。本当は意味があってやるんだけど、あまり意味を考えずにズームを使うカメラマンさんもいるので、そういうときは厳しく叱ってます。
--鴨さんが叱ってる!?
「そこはズームやめてもらえませんか?」みたいな。全然厳しくないね(笑)
--お願いしてる。
うん、お願いレベル。
*右奥にうっすら写っているのが鴨さんのカメラです(泣)
◆ どこでもない場所で
--表題作の『どこでもない場所』は宇宙空間にポンッと投げ出されるような不思議なお話でした。
僕は本当に自分がここにいる、という感じがずっとしなくって。それは多分、出自にも問題はあるのかもしれないんだけど。僕は父親がヨーロッパ系で、普通に日本の小学校へ行ってたから、学校に1人だけ金髪の白人の少年がいる状態だったんです。すると、違和感というか異質であるしかないんですよ。絶対に受け入れてもらえない。だからといって自分の努力で変えられることでもないし、インターナショナルスクールに行くかというとそっちでもないし。意識はしてないけど、ふわふわとどこにも所属しない感じというのは、きっと幼い頃からできているんだと思います。
--鴨さんのエッセイを好きな人は、どこかでその違和感を感じたことがある人が多い気がします。
みんなね、どこかで一度は居場所がないと思うから。それをちっちゃい時に努力ではどうしようもないって思い知るかどうかだけの違いで。だいたい14歳くらいからみんな居場所がなくなるからね。そのまま居場所がずーっとない人もいるし、どこかで見つける人もいるし。
--鴨さんは今も居場所がないですか?
なんかうまくはまらないですね。僕の居場所のなさは、逆に言うと、あらゆる場所にいるっていう居場所のなさなので。ホームがないだけ。全てにゲストでいるっていう状態。
--気に入ってますか?
うん、楽ですよ。ホームがあるとホームを整えなきゃいけないし。僕は全部をおろそかにできるので、楽です。
--この本を読んで、みんな気が楽になればいいですね。
そう。この本って結局、どうなってもいいやって本だからね。
--わざわざ言うことでもないんですけど、そう言って下さるのがまた嬉しいです。
どうなってもいい!🦆✨
読んでくださりありがとうございます。
人生編(後編)もお楽しみに。
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