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グレッチを振りかざす時は、スローモーションで〖#マイピリ参加〗
報酬は入社後平行線で、弊社は愛せど何もない
冒頭のこの一文を拝読し、この作品について書かないわけにはいかなくなった。
椎名ピザさんの、〖京浜東北サディスティック〗である。
やっと仕事に目途が付きそうだ。久しぶりに十分な時間が取れたので、ピリカ文庫を読み直した。そして、椎名ピザさんの〖京浜東北サディスティック〗に「おおお!」と唸った。
心は決まった。椎名ピザさんの作品への想いを胸に、意気揚々と#マイピリに参加することにした。
マイピリとは、「ピリカ文庫」という、珠玉の文学作品が詰め込まれたマガジンの中から、「あなたに読んでほしい!」と思う作品を紹介することができるという、なんとも嬉しい企画である。
ぜひ、この企画へのご参加をお勧めする。
詳細は、下記のコッシ―さんの記事をご参照頂きたい。
さて、それでは、椎名ピザさんの〖京浜東北サディスティック〗について、腕をぶんぶん回しながら、ご紹介させて頂こう。
note上では発言してこなかったが、私は学生時代に椎名林檎さんの音楽と出会った。出会ってしまった。この想い、「大好き」という言葉で表すのはちょっと軽すぎる。
〖京浜東北サディスティック〗というタイトルを拝読して、「これは書くしかない」と思った。
しかし、私は北国在住。土地勘が無く、京浜東北線がわからない。この小説を味わうには、まずは京浜東北線について調べなくては。路線図と睨めっこしながら、作中に英語で表記されている停止駅を順番に呟いた。
OKACHIMACHI⇒御徒町
NIPPORI⇒日暮里
ふんふん。新幹線ではない電車で県境を越えて行き来できるなんてすごい。(北国のまっさらな田舎者をどうかご容赦頂きたい)行ったことはないけれど、イメージが湧いて来た。下調べは重要だ。
金曜日の午後。浮き立つ会社員たちは、飲み会の計画を立て始める。この物語の主人公、新卒入社の「オレ」は、飲み会に誘われなかった。
会社の中にある、危うい均衡を保ちながら維持される集団。選ばれる者と、選ばれない者。その線引きは、きっと状況によって日々変化して、不安定で、曖昧なのだろう。
「オレ」は、いつもは立ち寄らないキヨスクでビールを買い、電車に乗り込む。
電車は終わりかけた金曜日をすべるように走る。英語の車内アナウンスと共に、幾つもの駅が過ぎ去る。夕空が、夜空に変わる頃の時間帯だろうか。
「オレ」は、電車の中でビールのプルタブを持ち上げる。ぷしゅっと。
ビールだと思っていたそれは、ビールではなかった。
第三のビールだった。
「ビールのように、人間にもランクがあるならば」、と「オレ」は過去へと思いを巡らせる。
車窓を高速で流れては去る景色と共に、シャッターを切るように、情景が、メインストリームから逸れたこれまでの人生の断片が、切り取られて浮かんでは消える。
南浦和を通過する頃合いで、「オレ」は、同じ車両に乗り合わせていた会社の後輩と目が合う。
後輩も、飲み会に誘われてはいなかった。後輩は、グレッチで殴つように言う。
「先輩、酒飲むんすね。いつも飲み会とか参加してないんで、酒飲めないかと思ってました」
「オレ」が、第三のビールを飲んでいると告白すると、後輩は続ける。
「いや、僕これ、本物のビールより美味いと思って飲んでるんで。本物のビールの苦すぎる感じ、ダメなんです」
この後輩くんの発言に、とても救われる思いがした。
いや、グレッチで殴たれる思いがした。スローモーションで。
私の中で、
・本物のビール⇒飲み会に行ったメインストリームな人たち
・第三のビール⇒飲み会に誘われなかった、メインストリームに乗らない人たち
という比喩が成立したからだ。
いいじゃないか。本物のビールじゃなくたって。
時々本物のビールじゃないことが辛くなるけれど、むしろ、第三のビールの方がいいじゃないか。
だって、「本物のビールより美味い」んだもん。
後輩くんの発言に救われるのは、私だけではないはずだ。
だから、私は〖京浜東北サディスティック〗を推させて頂いた。
例え一般的にランクが低いとされていても、「イチバン」よりも美味しいものがあるのだ。きっとあるのだ。
「オレ」は、後輩と飲みなおすことにした。
空き缶と共に、ずっと出せないままでいた辞表を捨てた。
色とりどりに明滅した、街の明かりが躍る。
金曜の夜が真っ暗闇ではなくて、本当に良かった。
<了>
この企画を立ち上げて下さった運営の皆さん、そして作者の椎名ピザさん、とてもとても楽しく参加させて頂きました! ありがとうございました!
「いい! 好き!」と思う作品について語ることができるという喜びを感じています。
椎名ピザさんの〖京浜東北サディスティック〗について、私なりの解釈を書いてみました。毎日は大変なことも多いけれど、ふっと呼吸が楽になるような言葉に出会えて幸せです。「あなたに是非読んでほしい!!」と推させて頂きます。よろしくお願いいたします。