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最悪(終)

○天網屋・表(夜)
箱馬車が止まる。
館の前におびただしい数の警官の姿。

警官3「天網屋龍左衛門並びに、芹沢桃介。馬車を降りよ!」

馬車から降りる天尽と桃介。

警官3「芹沢桃介。民政裁判所事務官を騙り司法省の名を使い過激な手段で民権運動を扇動した罪。詐欺罪及び讒謗律適応相当に値するものとし、逮捕する」
桃介「し、知らん」
警官3「この男が自ら東京に出頭して、黒金郡の混乱を洗いざらい全部告発したぞ」

縄についた忠蔵が現れる。

警官3「己の罪も含めてな」
忠蔵「黒金郡郡長の独裁と汚職、収賄贈賄、全ては私の一存にございます。百目木郡長には寛大なご処置をお願い致しまする」

桃介、逃亡しようとする。
が、瞬く間に捕えられる。
天尽、わざとらしく叫ぶ。

天尽「役人ではない? ……私を騙したのか?」
桃介「なんだと?」
天尽「邏卒様。確かに東京の民権集会にて彼と意気投合したは事実でございます。その情熱に打たれ力を貸したのも事実。地方の近代化に一役立てればと思いまして。しかしそれは司法省の後ろ盾があると信じてのこと。まさかただの在野の運動家とは!」
桃介「嘘だ! この男は全部知ってて!」
警官3「以上! 引ッ立てい!」

桃介と忠蔵、連行される。
警官3、天尽を睨みつける。

警官3「ひとまずは県令閣下に感謝せよ」
天尽「は? 何のことでしょう」
警官3「ただし。東京での追及はこうはいかんぞ。諸々、支度を整えておくことだな。ドブネズミめ」

警官3、警官隊を率いて去る。
天尽、慌てて館に駆け込む。
 
○代官所・代官屋敷・庭園(夜)
月下。二人だけで戦う修理と長三郎。
刃が交わり火花が散る。
長三郎、修理を弾き飛ばす。
修理、倒れることなく堪える。

修理「……立っているぞ」
長三郎「何?」
修理「儂は一人で立っておるぞ!」

修理、体ごと長三郎にぶつかってゆく。
長三郎、倒れる。

修理「一人で立てぬ奴に自由などない!」
長三郎「自由などいらぬ。私は侍だ!」

長三郎、修理と刃を交える。

長三郎「最後の侍として刑部様の意思を継ぐ」
修理「そうか。なら儂も最後の代官として父の役目を継ごう」

刃が交わり火花が散る。
 
○森のタタラ場・中(夜)
火の粉が散り、炉から炎が吹き上がる。
サト、必死に火を見続ける。
 
○代官所・代官屋敷・庭園(夜)
戦い続ける修理と長三郎。

修理「のう。何で俺らは戦っとるんだ」
長三郎「あんたが嫌いだった」
修理「それは不徳の致すところだ」
長三郎「私が百目木家に生まれておったら。私に代官家の地位があったら」
修理「そうか。許せ」
長三郎「許さん!」

刃が交わり火花が散る。

○森のタタラ場・中
炉から天高く炎が吹き上がる。
ひび割れた筋金から火が漏れる。
火の粉と煙が辺りを覆う。
炉を見つめるウラと長老達。
サト、高々とその手を上げる。
長老達、炉を崩し始める。
炉の中から真っ赤な鉧が現れる。
ウラとサト、じっと鉧を見つめる。

ウラ「仕上げじゃ」
サト「仕上げだね」
 
○代官所・代官屋敷・庭園(夜)
疲れ果て、ただ睨み合う修理と長三郎。
じりじりと間合いをつめる。

長三郎「仕上げだ」
修理「仕上げだな」

雄叫びと共に互いに渾身の一撃を放つ。
刃が交わる。
 
○森のタタラ場・中(夜)
分銅が落とされ鉧が真っ二つに割れる。
轟音が響き、煙が舞う。
長老達とウラ、サト、鉧に歩み寄る。
割れた鉧の中身が七色に輝いている。

サト「……最高!」

サト、微笑む。

(完)

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